第13回 加護野忠男論文賞
入賞論文

金 賞

IFRSの導入が M&A の Post Merger Integration に与える影響
髙津 亜弓氏(アストラゼネカ株式会社 )

銀 賞

医療機関における情報の不確実性が組織に与える影響
ー COVID-19流行下での病院を事例としてー
松岡 佑季氏(めぐみ台クリニック)

銅 賞

恒常的多事多端なベンチャー企業へのサービス方針の提案
ー駐車場シェアリングエコノミーの独自性を掛け合わせてー
塩尻 晋也氏(akippa株式会社)

 

加護野忠男論文賞 講評

 審査委員全員で論文を丹念に読ませていただきました。この選ばれた3本の論文はかなり質の高いもので、MBAの水準もきっちりと維持されていると感じました。それぞれの論文についてコメントいたします。

 金賞の髙津さんの論文は、国際会計基準が、企業の M&A や M&A 後のポストマージャーインテグレーションにどういう影響を及ぼすかということについて、インタビューを通じて明らかにしたものです。非常に難しい問題を、うまく問題の焦点を絞ることによって学術的な研究の成果をとりあげながら、実際的に有用な処方箋を出した点で、審査委員会では非常に高く評価されました。

 銀賞の松岡さんの論文は、新型コロナウイルス流行下で病院組織をどのようにしたらよいかという、今の時代に非常にマッチした提案です。経営学では、不確実な環境では有機的組織がよい、比較的安定した環境では機械的組織がよいという古典的な命題があります。病院組織は、基本的には機械的組織ですが、不確実な状況下では対応が難しくなるところがあります。そこで、有機的な要素を加えたハイブリッドな組織、つまり柔軟な機械的組織が危機対応には鍵になるだろうというコンセプトです。昨年のコロナ禍中、病院で何が起こったかというドキュメンテーションとして、とてもおもしろい論文でした。ただ、1980年代頃の危機対応の組織編成についての議論を丹念にフォローして、もう一歩突っ込んでもよかったのかなと思います。また、機械的な組織から柔軟で機械的な組織に変わるときにはどのような方法がとられるかを深く突き詰めていくと、さらにおもしろい論文になったのではないかという意見がありました。

 銅賞の塩尻さんの論文は、akippa株式会社の創業初期段階における不測の事態発生に対応して、駐車場サービスをどのような方向に変えていくとよいかという内容です。新しいビジネスモデルを創造する際に、初期段階で予想したもの、しなかったものを含めて、さまざまな不測の事態が発生し、組織が混乱することがあります。その混乱から抜け出す鍵を「従業員の満足」として、それを起点に組織を変えていけるのではないかという論文です。審査委員からは、ケースとしておもしろいが、ロジックが不明瞭なところがある、もう少しケース分析の理論モデルとの関わりを構築するとよりよい論文になったのではないかという意見がありました。特に、「シェアリングエコノミー」という概念モデルから説明しようしていますが、少し難しい部分があったと感じます。

 受賞された皆さん、おめでとうございます。

加護野忠男