特集-18
18.新型コロナウイルス感染症拡大下で社会を維持するための所得再配分政策
8月3日寄稿
休業や外出自粛の要請などによって経済環境が急激に悪化しつつあるなかでも経済を動かし社会を維持するためには、とにかく稼げる者に稼いでもらい、その成果を社会で適切に再分配し、できるだけ多くの企業や個人の健全性を維持しなければならない。さもなければ、たとえコロナ禍が収束しても、経済を回復できないからである。現下の経済情勢では、誰にどのように稼いでもらうかがきわめて重要な課題ではあるが、本稿では、誰かに稼いでもらえることを前提として、その所得の再分配のやり方について検討する。
所得再分配政策としては、すでにさまざまな税制や助成金制度等の整備が進められている。税制については、一定の要件を満たす場合に、個別の申請による申告・納付等の延長や納税猶予が認められている。国民健康保険や厚生年金保険等についても同様である。助成金、給付金、補助金に至っては、さまざまなものが用意されている。助成金としては、新型コロナウイルス感染症拡大による小学校休業等対応助成金および支援金、ならびに雇用調整助成金の特例措置の拡大がある。給付金・助成金としては、持続化給付金・補助金、物づくり・商業・サービス補助金、IT導入補助金等が用意されている。さらに、新型コロナウイルス感染症特別貸付、商工組合中央金庫および日本政策投資銀行による危機対応業務や信用保証協会による信用保証の拡充も図られている。これらの政策は、国や地方自治体の財政収入の縮小と財政支出の拡大を招き、財政の急激な悪化をもたらす。しかし、現時点では、個人や企業の経済活動を存続させ、社会を維持することが再優先であるため、このような緊急措置は致し方ない。
それよりも、こうした所得の再分配を、経済が止まらないうちにできるだけ早く実施することと、本当に必要な者に十分にいきわたるとともに、不要な者にまでばらまかれないようにする、ということが重要である。ただし、速やかな実施を焦ると、虚偽申請による不正受給や助成金頼みに陥るという問題が起き、国や自治体などの財政悪化や分配の歪みが生じるかもしれない。かといって、慎重な審査や事後の監視を強化すると、経済崩壊を招きかねない。
そこで考えられるのは、とりあえず納税等の猶予や助成等を行っておき、結果的に不必要だった者からは課税で回収するという方法である。すなわち、受け取った助成金等を課税対象としておき、一定の基準所得金額を超える所得に対しては、特別課税を行って取り返すのである。ここで注意しなければならないのは、特別課税額を「所得金額-基準所得金額」に税率をかけた金額ではなく、「所得金額-基準所得金額」のうち受け取った助成金等からなる部分全額とすることである。そうすれば、別に困っていない事業者であれば、後から追加納税する手間がかかるだけなので、初めから助成金等の申請をしないだろうし、反対に、本当に困っている事業者であれば、たとえ助成金等を課税対象とされても、それを上回る損失が発生するだろうから、結果的に特別課税を受けることはない。これによって、所得再分配の迅速性と公平性は、両方とも確保される。
ただし、この施策を実行するには、助成金等の申請と課税をマイナンバー等で紐づけ、一括管理できるシステムの整備が必要になる。この準備には、相当の時間と資金が必要になるかもしれない。しかし、今後も感染症や災害などが発生したときには、同様の納税猶予や助成金等の制度が必要となるであろうから、今回のコロナ禍を契機として、システムを整備しておくことは、決して無駄にはならないだろう。
システムの整備のほかに、近いうちにもう一つ問題になりそうなのが、納税を猶予した税金を後で本当に徴収するのか、ということである。特に、2019年度は黒字であったために納税の必要があったにもかかわらず、その猶予を受けた納税者が、2020年度には大きな赤字に転落したために、両年度を通算すると2年分が赤字になってしまう場合に、本当に猶予した2019年度の税金を徴収するのか、ということが、大きな社会的な問題となろう。欠損金の繰戻還付制度の適用を受ける中小企業であれば、この問題は生じないけれども、個人や大法人にとっては切実な問題である。この点に関する税制の整備も、至急進めるべきである。
