プロフェッショナルの仕事術
「コンフォートゾーン」を広げるMBA

<略歴>
2013年 神戸大学法学部卒業
2013年 株式会社ウィル入社
2021年 神戸大学MBA修了
◆神戸大学MBAを志望したきっかけ
私のキャリアのスタートは営業でした。営業として不動産の個人売買に携わった後、本社の経営企画に異動となり、現在は経営企画のマネージャーをしています。営業から本社への異動直後は、これまで使わなかったような用語が飛び交う世界。経営を企画するって何だろう、ファイナンスってどこから勉強したらいいのか、といった疑問が湧く中で、日々の業務でも自分自身の知識不足にも直面。何か体系的に学ぶ方法はないのか、というときに、転機が訪れました。
古くからの友人が国内大学のMBAに通っていたのですが、その友人が「今の渡瀨ならMBAに行く価値があるよ」と背中を押してくれました。友人にとってもほんの些細な一言で、まさかそこから本当に私が受験をするなんて思ってもみなかったと思います。しかし、そんな一言が私の胸に残り、神戸大学MBAにたどりつきました。
唐突ですが、私は神戸大学名誉教授でもある金井壽宏先生のキャリアドリフト論[1]が好きです。まさに節目をデザインする瞬間が、神戸大学MBAへの入学でした。30歳という節目に挑戦したい。入学してからのことは、合格してから考えればいい。節目をデザインし、後は偶然の出会いも楽しみつつ、流されてみる。もっと体系立ったカッコイイ理由があったらいいのかもしれませんが、自らの課題感と飛び込む勇気のみが私を突き動かしたのでした。
◆MBAでの学び
新卒からずっと中小企業にいた私は、MBA入学当時29歳。大手企業に勤める、今後、経営層を担うような30代後半から40代後半の方が多い中で浮いていたと思います。同期生が話す「海外駐在ってさ~」という会話にも、グローバルなあれこれの話にもついていけません。お恥ずかしい限りですが、「調達」という業務も入学後に知りました(丁寧に教えてくれたIさんの話、今でも覚えています)。自信満々の課題レポートに「夢物語」と言われ評価が最低なときもありました。業務と並行して課題の壁やチームワークの壁にぶつかることも多く、何度か日の出も見ました。
そのような中、教授陣も同期生の皆も、周りの人はあらゆる気づきを与えてくれます。各科目に関することはもちろん、それぞれの企業文化、あらゆる業界の潮流。古典から新理論にわたるまでの経営学の名著や論文。そしてもちろん、私自身もいろいろ教えたりします。MBAの素晴らしいところは、いろいろな人のキャリアやTipsを分かち合えるところだと思います。
また、私の場合は修士論文の研究対象を自社に限定し、とことん自社と経営学の各理論とを突き合わせました。そういった経験によって、自分のキャリアや所属する会社を俯瞰的に見ることができました。普段は何気なく見ている自社内のあらゆるもの一つひとつに、思いをはせる貴重な経験になりました。後に加護野論文賞をいただいた修士論文は、役員に共有し、今後の自社の人事マネジメントに一つの提言を行うことになりました。
そして、マーケテイングや会計、戦略論、工場の経営まで様々な経営学を学んだので、やはり経営に興味が湧きました。何年後になるかはわかりませんが、ゆくゆくは、経営者として会社と関わりたい、そんな気持ちを抱いて卒業しました。 
MBA修了式にて
◆学びの実践
MBA修了後は、習得した知識をもとに、経営企画の中でもPR部門・IR部門のより高いレベルでの業務遂行に努め、今年度からチームマネージャーとして勤務しています。当社は不動産業界の中では中堅企業に位置していますが、大手財閥企業や電鉄系企業と肩を並べるような企業を目指しています。昨年の創業30周年を経て、更なる営業エリアおよび業績の拡大を目指す中、マネージャーとして奮闘する日々です。
各理論の学びはもちろん、自社のキャリアだけでは得ることのできなかった知見が日々活きています。経営戦略の考え方などはもちろんですが、私自身が一番感じるのは部下との対話時です。業務において1on1を取り入れていますが、その際にいろいろなことを聞かれます。「自社においてはなぜこうなのか?」「自らのキャリアについて」など話題は様々です。その際に視野を広く持った上で対応できることが、マネージャーとしての私の強みとなりつつあるという自負があります。転職やパラレルキャリアが当たり前になった現代。部下たちは上司を見て、「この人は、ちゃんとわかっている人なのか」「この人のもとで成長することができるのか」をシビアに見ていると感じます。離職が悪だとは言いませんが、私は離職率の高いチームを作りたいとは思いません。個人、チーム、そして会社として短期的にも長期的にも成果を上げるべく、一緒に働く仲間の育成は不可欠です。たった1回の1on1面談がきっかけで部下のモチベ―ションを上げることも、信頼を失うこともあります。そんな戦いのような部下との対話において、MBAで得た知見や人間関係が一つの武器になっていると感じる日々です。
◆MBA経て心がけていること
MBAでの経験を経て、現在の業務で心がけていることは、「自らのコンフォートゾーンを広げる」ということです。普段いる場所や、いつもの仕事のやり方に安心さ、快適さを感じます。しかし、ずっとその中で生活していると、つまらなくなります。刺激がなくなり、自らの成長も止まる。「自分の周りの5人を平均すると自分になる」という名言もありますが、その通りだと思います。自らを変えるために、新しい環境に飛び込む。新しい人間関係をつくる。20代の自分とは全く違う30代、40代を築いていく。
そんな第一歩が、神戸大学MBAにはありました。新しい環境に触れ、自らを変えていく。これからも人生やキャリアは続いていきます。MBAでの経験によって、また新しい節目をつくりたいという思いも強いです。トンネルの暗闇に飛び込むが如く、節目を描いた後はドリフトすることの価値を胸に、コンフォートゾーンを広げ続け、自らをアップデートし続けていきたいです。

職場の同僚と
[1] キャリアドリフト論:キャリア(career/仕事の経験)とドリフト(drift/漂流)を合わせた造語で、状況に合わせて漂流し、変化に対応することで、得たチャンスを活かしてキャリアを築くという理論
