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サイエンス・カフェ(経営学)のご報告

 神戸大学経営学部では、主として高校1・2年生を対象としてサイエンス・カフェ(経営学)をZoomによるオンラインで開催しています。昨年に続き、第3弾として12月の冬休みに開催し、当研究所が事務局を担当しました。

 第3弾は、12月27日、28日に以下のような内容で開催しました。

第6回 12月27日(火)
テーマ:日本史の教科書を通じて経営を考えてみよう
講 師:平野恭平 准教授
概 要:近世の呉服商や両替商、近代の製糸業や紡績業などは、日本史の教科書によく登場します。いくつかの例を取り上げて、経営とは何かを考えてみたいと思います。

第7回 12月28日(水)
テーマ:「もうかる」とはどういうこと?会計的計算への招待
講 師:清水 泰洋 教授
概 要:「もうかる」という言葉は日常的な用語で意味も良く理解されています。では、買い物でおまけをもらった時の「もうかった」と、会社が「もうかった」ことは同じでしょうか。具体的な例を通じて会計的計算を考えてみます。

 今回も担当いただいた講師から寄稿いただきました。

 

サイエンス・カフェを終えて 

平野 恭平 

 今回、私が取り上げたテーマは、「日本史の教科書を通じて経営を考えてみよう」というものでした。当日は、本題に入る前に、文学部の史学科でもないのに、なぜ経営学部で歴史を学ぶのかというお話から始めました。歴史を学ぶ意義というのは、人によって異なると思いますが、現在を生きる知恵や未来に向けての指針を得ることが重要ではないかといったことを少しお話ししました。

 その後に、日本史の教科書で取り上げられるようなトピックスから経営学のことを考えてみようと、江戸時代の商家での販売や会計のこと、幕末から明治期にかけての企業家たちのこと、明治期から大正期にかけての綿紡績業の技術と管理のことなどをお話ししました。高校までの日本史の授業では、経営学的な側面はほどほどに説明されることが多いと思いますが、経営学の観点を踏まえて考えてみると、先人たちの偉大さが理解できるようになると思います。例えば、戦前の繊維産業では、若い女性労働者たちが悲惨な環境で働かされていたとよく言われますが、そういったやり方ではいけないと改善を試みた経営者たちがいたことや、彼らの行った労務管理が温情的なものだけではなく、働く人々の勤労意欲を高めるためのものでもあったことなども伝えていかなければ、単に低賃金労働だけで成り立っていたという誤解を生むことにもなりかねません。

 サイエンス・カフェでの内容から離れるのですが、以前、経済史・経営史の大家よりうかがったエピソードがあります。かつてその方が、小学生向けに過去の偉人についての講演を頼まれた際、ご自身の専門に近い企業家や経営者を取り上げようとしたところ、金儲けに関する話題は避けてほしいと言われたことがあったそうです。初等教育で金儲けの話題を取り上げることに抵抗感を抱く人もいたのかもしれませんが、最近は、子どもたちに早くから金融知識を教えるという動きもあるように、正しく稼ぐことの大切さを理解してもらい、そのために経営学が貢献できることを知ってもらうことも大事であるように思います。今回のサイエンス・カフェで高校生の皆さんにうまく伝えることができたかどうか自信はありませんが、私としては、日本史の教育に経営学的な側面から貢献できる可能性はまだまだあるように感じました。

 

サイエンス・カフェを終えて

清水 泰洋

 今回のサイエンス・カフェでは、「『もうかる』とはどういうこと?会計的計算への招待」というテーマでお話しをする機会をいただきました。

 「会計」という言葉は、どこでも聞く、高校生にもなじみのある言葉です。会計をお金の計算と考えると、誰にでもできそうに感じます。事実、お小遣い帳や家計簿をつけることは、会計だといえます。お小遣い帳や家計簿は、日々のお金の出入りを忘れずに記録しておくことによってできますので、特別な知識は必要なさそうです。

 「利益」についても同様です。もう少し具体的に、「もうかる」「損をする」という言葉もまたよく聞く言葉です。企業は、安く作ったもの、安く買ったものをより高い値段で売ることができれば、差額が利益になります。どこも難しそうには見えません。企業の会計も、事実を淡々と記録するだけの退屈な仕事のように思えるかもしれません。

 しかし実際は、それほど簡単なものではありません。利益とは、概念上の金額であり現実のものではありません。企業のカネ(経営学ではよく、企業が扱う資源を「ヒト・モノ・カネ」、場合によりこれに加えて「情報」と呼んでいます)を増やすことは企業の主要な目的の一つですが、カネを現金と捉え、現金の増加額を利益としてしまうと様々な問題や不公平が生じます。そこで、現金とは異なる概念である利益が計算されることになります。利益は目に見えない概念上のものですから、素朴な直感からは意外に思える結論も出ることになります。

 お話の中では、具体的な数字を使って利益を計算してみるクイズを通じて説明を行いました。会計で利益を計算することが思ったほど単純ではないことを感じていただいたと思います。会計が何であるかについて十分に説明はできなかったかもしれませんが、会計はプロフェッション(専門職)も存在する職業であり、大学に入学してから取り組むだけの価値のある領域です。人々は会計の数字を見て動き、またできあがる会計の数字を予測しながら動きます。会計は人を動かす力をもった道具であります。今回の講義を通じて会計がもつ面白さや難しさを感じていただければ幸いです。

 

 どちらの回も、講師からの質問にチャットや投票を利用するなど、ダイレクトな双方向のやりとりを交え、参加者がそれぞれ思いついた意見を書き込んでくれました。サイエンス・カフェ(経営学)を通じて、参加いただいた皆さんが経営学についてより関心を抱いてくだされば幸いです。

 サイエンス・カフェ(経営学)は不定期開催しております。また企画されましたらご案内いたしますので、関心をお持ちの方にご紹介いただければと存じます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。