プロフェッショナルの仕事術
人生に彩りを与えてくれたMBA

  • 細川 豊司 (株式会社三菱UFJ銀行)

<略歴>
2002年 神戸大学経済学部 卒業
2002年 東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行) 入社
2019年 神戸大学MBA 修了
2022年 神戸大学大学院経営学研究科 非常勤講師
     同ファミリービジネス研究教育センター 研究員

◆神戸大学MBA受講のきっかけ

 2002年に神戸大学経済学部を卒業し、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入社しました。入社後は15年にわたり、大企業から中小企業まで幅広い層の法人取引を経験しました。その中で、少子高齢化・人口減少と並行して進む企業数の減少、低金利環境の常態化による利鞘の縮小、ITの発展による他業参入などを背景として、銀行の伝統的な3大業務である「預金業務・融資業務・為替業務」の先行きの厳しさを肌で感じるようになります。

 銀行ビジネス変革の必要性を実感するなか、自身の成長を求め、2017年4月に社内公募を利用してウェルスマネジメントビジネス(超富裕層個人取引)の従事者へと転身しました。超富裕層の大半は、成功したファミリービジネス[1]の創業一族です。ファミリービジネスの創業一族を取り巻く複雑な問題をサポートするため、経営学の体系的な知見がきっと役に立つとの考えから、MBA受験を決意するに至りました。2017年8月には東京から大阪に転勤(単身赴任)となり、その秋に神戸大学MBAに出願しました。そして翌年4月から16年ぶりに神戸六甲台に通うことを許されました。
[1]ファミリービジネス:特定のファミリーが所有、経営、もしくはその両方を通じ、影響を与えている企業を指す。

◆MBAの学び

 神戸大学MBAに在籍した1年6か月は、タイムマネジメントも含めてそのすべてに貴重な学びが溢れていましたが、やはり特筆すべきは「プロジェクト方式」のカリキュラムだと思います。

 神戸大学MBAでは、「研究に基礎をおく教育」・「働きながら学ぶ」というコンセプトのもと、その両者を統合した「プロジェクト方式」という教育方法が採用されています。6人前後の指定チームで指定テーマに取り組む「ケースプロジェクト」、自由なチーム・自由なテーマな設定で研究を行う「テーマプロジェクト」、そして二つのチームプロジェクトで学んだ研究方法を活かし、最後に個人で修士論文を書き上げるプロジェクトに挑むことになります。

 研究のために縁もゆかりもない企業にコンタクトをとり、何とかインタビュー調査にこぎつける経験。年齢も業界も違う研究チームのメンバーと、日付が変わるまで(時には朝まで)「ああでもない、こうでもない」と意見を戦わせ合う経験。こうした経験を通じて培われた行動力、人間関係、そして価値観は、私の人生にかけがえのない彩りを今でも与え続けてくれています。

◆学びの実践

 修士論文では、黎明期にある日本のウェルスマネジメントビジネスに対し、金融機関はどのように取り組むべきかをテーマとしました(論題:ウェルスマネジメントビジネス改善隻語-ファミリーオフィス[2]の可能性-)。 

 MBA修了後の現在も、三菱UFJ銀行にてウェルスマネジメントビジネスに従事しており、2021年4月からは新設されたファミリーオフィス室のメンバーとして、日本を代表するファミリービジネスの創業一族が永続的に発展するサポートを行っています。その業務推進にあたっては、神戸大学MBAで学んだモノの見方・考え方、研究を通じて得られた示唆が、大変役立っています。
[2]ファミリーオフィス:ファミリービジネスの成功により超富裕層となった創業一族の複雑な局面をサポートする組織。事業投資・資産の運用管理・税務、一族メンバーの教育などを担う。欧米では一般的であるが、日本での浸透はこれから。

◆これから

 三菱UFJ銀行と神戸大学大学院経営学研究科・現代経営学研究所は、2022年3月にファミリービジネスの共同研究に関する産学連携協定を締結しました(図表)。この協定の活動は、同年4月に神戸大学大学院経営学研究科内に設置された「ファミリービジネス研究教育センター(MUFGウェルスマネジメント寄附センター)」を通じて推進していきますが、私も同センターのメンバーとして参画させていただいています。

 日本は9割を超える企業がファミリービジネスといわれる、世界に名だたるファミリービジネス大国です。今後もファミリービジネス研究を継続し、その成果を社会に還元することで、「少子・高齢化」などの社会課題[3]の解決に貢献していきたいと考えています。
[3]三菱UFJフィナンシャル・グループは、サスティナビリティへの取り組みを経営の最重要課題と位置付けており、優先的に取り組む10の社会課題を特定しています。ファミリービジネスの後継者問題を含む「少子・高齢化への対応」もその社会課題の一つです。

 

 

◆おわりに

 最後になりましたが、MBAで多大なご指導とご支援をいただきました藤原賢哉教授をはじめとする神戸大学の先生方、MBAの同級生・諸先輩の皆さま、業務との両立にご協力をいただきました勤務先関係者の皆さまに心より感謝し、結びの言葉とさせていただきます。