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MBA Cafe主催 松尾博文名誉教授、伊藤宗彦名誉教授によるオンライン講演会のご報告

  • 多喜田 保志 (MBA Cafe会長(2016年入学))

 2022年3月27日(日)10:00より、松尾博文名誉教授、伊藤宗彦教授(以下、松尾教授、伊藤教授)に「1からのデジタル経営」というタイトルで講演いただきました。松尾教授はオペレーションズ・マネジメント応用研究、伊藤教授はサービスイノベーション研究といった、神戸大学MBAの名物講義を担当されていましたので、読者の中には、当時の講義の様子を思い出される方もいらっしゃると思います。

 伊藤教授は、2022年3月で神戸大学を退官されました。昨年「お世話になった神戸大学MBAに恩返しをしたい」と打診があり、書籍の出版に合わせて、この時期の講演となりました。結果として、本講演が伊藤教授の神戸大学教授として実質的な最終講義になったのではないかと思います。このような貴重な機会にご講演いただくこととなり、MBA Cafeとしても非常にうれしく思います。テーマが時流に沿った大変興味深い講演会だったこともあり、120名を超える方に申し込みいただきました。

 本講演は、出席者が事前に指定されたビデオ教材を視聴したうえで、両教授による講演(各30分)、質疑応答(30分)という構成で実施されました。

伊藤宗彦・松尾博文・富田純一(編著)2022年  碩学舎

「1からのデジタル経営」章構成(当日資料の一部)

 

1からのデジタル経営」は、理論的な話に加え、様々な企業におけるDX変革の事例が述べられており、購入者は関連資料やビデオ教材をダウンロードできる構成となっています。今回の講演内容は書籍に沿って構成されており、著作権との兼ね合いもあると判断しましたので割愛いたします。興味のある方は、書籍をご購入ください。

 質疑応答では、数多くの質問があり、活発な議論が展開されました。以下が、興味深かった質問と先生方の回答の要約となります。

質問 DXとそれにかかるコストと個人情報保護などのコンプライアンス的な話との関係について。

ご講演時:松尾博文教授

松尾教授: コストから考えることは、現状のビジネスプロセスを維持しようとする考え方であり、そこからDXを考えると動かない。コストは忘れて、CompetitivenessやRevenueからの発想でないと無理。今回書籍に挙げた企業事例は、いずれもコストの発想はなく、この変革をしないと駄目だという発想になっている。ビジネスプランだからコストの話は出てくるのだが、将来を見据えた産業の動向、お客さんの変化、技術の変化が頭にあり、その中で変革しないと太刀打ちできないという前提からの変革となっている。コストfirstは駄目で、まず絵を描いて、その結果利益が出るようにプロセスを考えることが重要であろう。

伊藤教授: QCD(Quality、Cost、Delivery)の発想とDXを結びつけるとうまくいかない。書籍の事例でも、新たな価値で収益をあげている。難しいことは理解しているが、10年後の世界にある収益構造のモデルを考え、それをDXでどう達成したいかを考えることが重要。

松尾教授: 個人情報保護の観点はとても重要で、サイバーセキュリティが鍵となる。サイバーセキュリティを無視して、DXを考えてはならない。暗号化が進化しており、そういうものが自分のビジネスと関係ないと思ったら駄目で、自分なりに理解してほしい。

伊藤教授: 海外のe-healthなど、カルテを一元化して国が管理する仕組みも存在する。規制と個人情報保護の強力な技術の発展が重要になってくる。

質問: DXを進めていくと機密情報保護も重要になってくる。この点をどのように学べばよいか。

松尾教授: 現職の東京国際大学では、サイバーセキュリティが重要ということで海外から研究者を雇っている。研究者は世界中から探せる。暗号技術の分野はどんどん進んでおり、世界中で盛んに研究が行われている。もはや国内の大学から集めてくるのは限界があり、そういった技術のスタッフを世界中から集めてこないと太刀打ちできない。

質問: DX推進の鍵は何か。

ご講演時:伊藤宗彦教授

伊藤教授: 今年のMBAテーマプロジェクトの優勝チームの発表がまさにDXだった。その中でソニーの話が出てきて、電気自動車や不動産など、サプライヤーの領域を出て、AIを使った新たなビジネスの話が出てきている。

 このようにDX推進の鍵は、10年後どうなっている(いたい)かの理想を持っていることが必要であり、その絵をしっかりと描けていれば、DX推進できるのではないか。

 

 MBA Cafeでは会員の皆さまに、最新の経営理論に触れるセミナーを今後も開催していく予定です。OB・OG諸氏のご協力を引き続き賜れればと考えておりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

 そして、最後になりましたが、ご多忙の中、今回のオンライン講演会の講師を快く引き受けていただいた松尾教授・伊藤教授に改めて厚くお礼申し上げます。