プロフェッショナルの仕事術
看護師のダイバーシティ・マネジメント

  • 本田 順子 (兵庫県立大学看護学部 准教授)

<略歴>
2004年 神戸大学医学部保健学科卒業
2008年 神戸大学医学部附属病院こどもセンター 看護師
2011年 神戸大学大学院保健学研究科看護学領域 助教
2014年 神戸大学大学院医学系研究科博士課程後期課程修了(保健学博士)
2015年 神戸大学大学院保健学研究科看護学領域家族看護学分野 講師
2016年 神戸大学在職中にThe University of North Carolina at Chapel Hill International Visiting Scholarとして留学
2019年 現職
2020年 神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程(MBA)修了
専門は小児看護学、家族看護学

◆経営学との出会い

 私が神戸大学大学院保健学研究科で助教をしていた頃、大学院では助産師コースが新たに設置されることになりました。そこでは、経営学研究科の松尾貴巳先生と北海道大学の松尾睦先生を講師に迎えての講義が開講されたのですが、看護系教員も聴講できるとのお知らせがありました。なぜ看護に経営の先生が?と疑問を感じながらも、折角の機会だと思い、聴講させていただきました。貴巳先生の講義の中で病院の業績管理のお話があり、そんなこと全く考えたこともなく病院で看護師として働いていたことに気づきました。目の前にいる患者さんのためにということ以外に何か考えて仕事をしているか...そんな看護師は多くいると思います。睦先生の講義では人材育成やリフレクションのお話がありました。「リフレクション」は看護師業界でも多用されており、一つの話題だと思っていました。当たり前ですが、どこの世界でも人材育成に取り組んでいます。また、ここでも自分は世間知らずかつ針の穴くらいの視野しかないと認識しました。そしてこのような分野の学問的追求は、経営学で行われていること、経営学とはもしかして広くて深く、どの業界にも関連している重要な学問ではないか!と気づいたのです。

◆MBAに入るきっかけ

 私にとって、2016年のアメリカへの留学が大きな転機となりました。アメリカと日本とでは、臨床の看護師の専門性の活用や看護研究者の人材育成に大きな違いがあったからです。留学前から気になっていたテーマではありましたが、アメリカとの差に愕然としました。看護そのもの、患者さんへのケアに関しては、日本人のホスピタリティやケアリング精神は世界一だと思っていますが、臨床看護師の専門性の活用や看護研究者の人材育成に関しては、日本はまだうまくいってないという実感があります。また、日本の看護師は、他分野の学問を学ぶということがあまりメジャーではないと思いますが、アメリカの看護系教員は社会学、教育学、文化人類学など他分野での学位をもつ人は珍しくありませんでした。やはり、私は視野が狭いと再認識しましたが、看護の世界だけにいても解決策が見いだせない気がしました。そこで、両松尾先生の講義を思い出し、経営学を学んで、解決のヒントを得たい!と思い、仕事をしながら経営学を学べるところについて調べました。海外などオンラインで学べるところもありましたが、他分野の方々との直接交流がしたかったのと研究ができると思ったので、神戸大学に決めました。

 MBA受験の面接では、面接員の先生から「MBAにわざわざ来なくていいんじゃない?経営学の教員と一緒に研究すれば?」と意地悪な質問をされましたが(笑)、「いや、視野を広げるために違う分野の人の中に入って経営学を学びたいです!」というようなことを力説したと記憶にあります。

◆MBAから得たもの

 レポートや課題に追われる日々、MBA在学中の1年半は記憶にないくらい多忙となりました。本当に仲間に助けられなんとか単位を取得できたという感じです。講義だけでなく、プロジェクトを通して、多くの企業人からの学びを得ました。大企業の重役に過緊張で望んだインタビューも今では良い思い出です。MBA仲間との交流は何にも変えがたい貴重な時間でした。医療業界やアカデミアでは当たり前のことが、まったく当たり前ではないことにもたくさん気づかされましたし、逆にキャリア形成、人材育成やダイバーシティ・マネジメントはどの業界でも課題で、それぞれがどんな課題解決に取り組んでいるのか、先生や仲間とのディスカッションはとても有意義でした。自分の専門分野ではそれなりのキャリアがありますし、偉そうに?大学で教えているわけですが、他の分野で活躍しているMBA仲間と比べると、世間知らずで“できない”自分に出会って、へこむこともありましたが、刺激的で楽しかったです。自分にたくさんのインプットをくれる仲間の存在は本当に貴重です。

 

 鈴木竜太先生を囲んでゼミ生のみなさんと

 私は、鈴木竜太先生のもと、専門看護師というスペシャリストの活用についての研究に取り組むことにしました。これまで、教員として大学院で専門看護師の養成に携わっています。ベテランナースたちが、退職や休職し、大学院に進学してきます。2年間のハードな講義、演習、実習を経て、専門看護師になっていくわけですが、臨床へ送り出した後の彼らの悩みや課題は山積みでした。臨床現場では、専門看護師って何?から始まるわけです。スタッフナースと変わらない条件で働き、専門性を発揮できない専門看護師もいました。どうしたら専門看護師が活躍できるのか?組織に活用されるのか?私たち教員は大学院で教育し、彼らを送り出したら、それでいいのか?その問いの答えを探していました。

 鈴木ゼミでは同級生とバディを組んで修論を進めていくスタイルでした。私は医師である松岡さんと組ませていただけたので、医療者としてもバディであり、お互いの状況がよくわかるので、理解しあい、励まし合い、またお互いの研究にも意見を出し合いながら進めていくことができました。本格的に修論に取り組み始めたのは、COVID-19のパンデミックの影響をもろに受けている時期で、医療現場も職場も大混乱しており、修論に十分な時間がかけられなかったのが心のこりでしたが、その研究を今も継続しています。MBA修了後、助成金を獲得し、倫理委員会の承認を受け、本格的にデータ収集を開始しました。専門看護師や看護管理者へのインタビューを続けていますが、このテーマは現場での問題意識も高く、看護管理者と専門看護師の両方にアプローチが必要であることが明らかになっているので、研究結果を早く社会に還元せねばと思っているところです。現職では、引き続き専門看護師教育に携わっているので、専門看護師を目指す院生とも組織で活用してもらうには何が必要かについてディスカッションする時間を増やしています。引き続き、MBAでお世話になった先生方や仲間に支えられながら看護師のダイバーシティ・マネジメントについて貢献できればと思っています。

 

バディの松岡さんと修了式にて