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サイエンス・カフェ(経営学)のご報告

 神戸大学経営学部では、主として高校1・2年生を対象としたサイエンス・カフェ(経営学)をZoomによるオンラインで開催しています。今回は8月開催に続き、第2弾として3月の連休に開催し、前回同様、現代経営学研究所は事務局を担当しました。

 第2弾は、3月19日、21日に以下のような内容で開催しました。

第4回 3月19日(土)
テーマ:なぜこの商品・この人は、こんなにも魅力的なのか?
講 師:吉田満梨 准教授
概 要:人々の心をつかむ商品や人物には、独自の魅力があります。こうした他にはない価値の定義は、価値を創造・伝達・提供するマーケティング活動の中心的な課題です。身近なヒット商品を通じて理論を学んでいきます。

第5回 3月21日(祝・月)
テーマ:世界史の知識でビジネスの仕組みを理解する
講 師:森 直哉 教授
概 要:オランダ東インド会社は、1602年に設立された世界で最初の株式会社です。コショウ貿易の物語を通じてビジネスの本質を理解しておくと、大学の経営学部で学ぶことの意義が今のうちからハッキリとわかります。

 今回も担当いただいた講師から寄稿いただきました。

サイエンス・カフェを終えて 

吉田 満梨 

 「なぜこの商品・この人は、こんなにも魅力的なのか?」というテーマで、高校生に向けてお話をする機会をいただきました。私自身は、マーケティングの研究をしていますが、マーケティングや経営学の知識が、企業活動だけでなく、一人ひとりの人生をより良くするうえで有用であることを、少しでもお伝えできたらと考えました。

 例えば、マーケティングは、顧客をはじめとする幅広いステークホルダーにとっての価値を生み出し、交換を実現するための活動ですが、目的とする成果は必ずしも経済的な価値に限定されません。社会課題の解決や、他者との関係構築それ自体の実現のために活用されることもあります。講義の中でも、The Body Shopが90年代に女性たちの自尊心を高めるために実施した広告キャンペーンや、10~20代に人気のあるインフルエンサー、スナップ写真撮影という文化を大衆に根付かせたイーストマン・コダックの歴史なども、マーケティングの成功事例として取り上げました。

 そのうえで、「どのような価値を提案するのか?」と「どのように価値を提案するのか?」に関する、マーケティング論の基本的な考え方を概説しました。まず、「どのような価値を提案するのか?」では、市場を構成する5種類の参加者(顧客・企業・協力者・競合・環境)を考慮したうえで、顧客と自社、そして協力者にとって最適な価値提案を、競合よりも有利な形で設計することが重要になります。そして、「どのように価値を提案するのか?」では、提供する製品やサービスだけではなく、価格やコミュニケーション、マーケティングチャネルを整合的に設計する、「マーケティング・ミックス」と呼ばれる考え方が基本になります。

 説明には、聴衆である高校生の皆さんにとって、できるだけ分かりやすい事例を用いたいと考えていましたが、一方で、私のよく知る事例は、若い皆さんには馴染みがない恐れがあります。そこで、今年度の経営学部の授業で、受講生の皆さんが取り上げてくれて一緒に議論をした様々な製品・サービスの事例を、具体例として使わせていただきました。そういう意味で、今回の講義は、経営学部生の皆さんとの合作であったと言えます。

 今回のサイエンス・カフェでは、北海道から九州・四国まで、全国の様々な地域の高校生の方がオンラインで参加をしてくれました。そのうち一人でも多くの方が、これから学問の楽しさと出会い、経営学部の学びを通じて、世界への見方が変わる経験ができることを、心より期待しています。

 

サイエンス・カフェを終えて

森 直哉

 この企画を依頼された際、私自身が高校生の頃に経験すればよかったはずの時間を提供しようと考えました。つまり、経営学を勉強すれば残りの人生をどのような意識で過ごすことになるのかを、高校生のうちから知るということです。誰だって、これから学ぶものが自分自身の役に立ち、社会の役に立つものであることを願うはずです。まずもってビジネスとは何か、経済とは何かを理解してもらわないと、そもそも話にならないと思ったわけです。

 残念なことに、企業がカネを稼ぐなんてケシカランとか、自由主義経済はよろしくないとか、経営学なんて役に立たないとか、世間ではいろいろ言われがちです。しかし、そうだとすると、経営学部はわざわざ役立たずのことを教える暇つぶしのための場所なのでしょうか。親御さんや高校の先生方の考え方にも影響されることがあるかもしれませんが、ともかく高校生にこの種の偏見を持たれたくないと願っています。

 私が選んだテーマは「世界史の知識でビジネスの仕組みを理解する」です。中世ヨーロッパでは、胡椒はほとんど栽培できなかったため、商人がピンセットで丁寧に数えるぐらいに高価なぜいたく品でした。そのため、一般庶民は味気のない肉料理で我慢せざるを得なかったのです。ところが、羅針盤の発明と航海技術の発展に後押しされて、15世紀に大航海時代が到来します。そこで、比較的裕福な投資家たちが共同出資によって貿易会社を設立し、胡椒が大量に栽培されている東インド地域まで船を出しました。安く買いつけて無事に持ち帰れば、一般庶民は従来よりもずっと安い価格で胡椒を買えるうえに、貿易会社は莫大な利益を得ることができます。ただし、船は海賊に襲われることもあるし、難破で沈没することもありました。非常にリスクが高いビジネスです。

 高校世界史の教科書では淡々と記述されがちな内容ですが、大学の経営学部で学ぶ内容が行間にギッシリと詰まっています。胡椒と肉料理の関係がそうであるように、ビジネスは私たちの生活を豊かに変革し得るものです。それを支えるには投資家がリスクを負担しなければなりません。株式を売却して資金回収できる方法を考案したことにより、集めた資金のほとんどを設備投資にまわすことを可能にしました。企業間で希少な経営資源(ヒト・モノ・カネ)の活用法を競い合うのがビジネスであり、自由主義経済のメカニズムです。経営資源を無駄遣いしないための創意工夫が経営学なのだと、私なりに説明しました。小粒の胡椒でこれほど大粒の話を盛り込んだので、高校生たちは意外な思いで受け止めたかもしれません。

 

 今回は、講師が経営学を学ぶきっかけや、大学生活のエピソードなども講義に交えてお話いただき、朝の1時間半の講義はあっという間に終了しました。参加いただいた皆さんが経営学についてより関心を抱いてくだされば幸いです。

 また、2月10日に開催された末廣英生教授の「リーダーシップを作る話」をテーマに「教授が語る研究の話会」を録画して、視聴希望申し込みをいただいた方が、3月中の期間限定でオンデマンド視聴可能なサイエンス・カフェ特別編も実施しました。多数視聴お申し込みいただき、誠にありがとうございました。