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『経営学の開拓者たち』出版記念シンポジウムのご報告

上林 憲雄(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

2021年 中央経済社

 2021年11月28日、神戸大学大学院経営学研究科が主催し、公益財団法人六甲台後援会にご協賛いただいた『経営学の開拓者たち ―神戸大学経営学部の軌跡と挑戦―』出版記念シンポジウムが開催されました。新型コロナウィルス感染症の拡大が懸念される中ではありましたが、対策を万全に施したうえで、ANAクラウンプラザホテル神戸のThe Ballroomにて基調講演と報告、パネルディスカッションを行いました。休日開催にもかかわらず、ウイズコロナの中で行われるイベントとしては当初の想定を上回る70名を超える方々にご参加をいただき、熱気あふれる中で盛大に開催できたことは、企画者として大変うれしく存じます。

 本書は、神戸大学経営学部が1949年に日本初の経営学部として設立され、2019年に創設70年を迎えたことを記念して企画され、内外27名の方々にご執筆をいただき、2021年4月に上梓されました。

 今回のシンポジウムでは、本書の執筆陣から加護野忠男教授(本学社会システムイノベーションセンター特命教授、名誉教授)と本学卒業生の住田功一氏(元NHKアナウンサー)に基調講演をいただきました。加護野教授は「神戸と幸福経営の歴史」と題し、神戸という地に人々の幸せについてしっかり考える気風が根付いていたことを、さまざまな企業事例に基づいて講演されました。

 住田氏は、「私が経営学部の学生だったころ」と題して、在学されていた1980年前後の世相や現在ほどITが発達しておらず、履修登録表などもゴム印や手書きで作成されていたことなど当時の神戸大学の状況や雰囲気について、往年の懐かしい写真や資料を用いながらお話ししていただきました。自分の好きなこと、やろうと思ったことを存分に追求できる環境であったことが、ご講演を通じうかがえました。

 続く報告セッションでは、平野恭平准教授、服部泰宏准教授、平野光俊教授(大手前大学副学長・現代社会学部教授、本学名誉教授)に登壇いただきました。

 平野恭平准教授は、日本初の経営学部が設立された歴史的経緯とその中で平井泰太郎博士が果たされた役割が大きかったことについて、服部准教授は、神戸大学経営学部・大学院経営学研究科が日本の経営学研究のセンターとしての地位をこれまで確立してきていたこと、そしてこれからもそうあり続ける必要があることについて、それぞれ豊富な資料をもとに熱弁をふるわれました。

 平野光俊教授は、本学MBAプログラム出身という立場から、本学MBAの特徴について報告されました。カリキュラムや専門科目上の特色もさることながら、本学MBAでは最先端の研究をしている教授陣や、研究者を目指す一般大学院生たちが相互に影響を与えながら成長していく体制が確立されていることに、本学MBAの大きな意義があることについてお話しされました。

 

 

 その後のパネルディスカッションでは、加護野教授と報告者の3名がパネリストで登壇し、上林によるコーディネートのもと、興味深い討議が繰り広げられました。これからの経営学研究・教育を考えていくための課題として、本学ではせっかく有能な学部学生が多数在籍しているにもかかわらず、MBA生や一般大学院生、ゼミ指導教員以外の教授陣とのつながりが多いとはいえず、彼、彼女らの教育のあり方について今後考えていく必要があるといったような課題も明らかになりました。

 シンポジウム冒頭の開会挨拶にて研究科長の南知惠子教授も言及されましたが、神戸大学のみならず日本全国の大学が目下、国際ジャーナルへの掲載本数や外部資金獲得額といった各種の戦略指標の達成に躍起になっており、そうした側面での大学間競争が激化しています。しかし、今回のパネルディスカッションを通じ、本来あるべき研究教育とは何なのか、今後さらに真摯に考えていく必要があることが明らかになりました。

 とりわけ、われわれ研究教育に携わるスタッフ一同が、外形的な数値目標の達成にあくせくするのではなく、研究対象に惚れ込み、熱い思いを込めて研究教育に取り組む姿勢を学生に見せない限り、加護野教授の言及した「人々の幸福」は決して達成されえないことが示されました。

 この出版記念シンポジウムの様子は研究科ホームページからもご覧いただけます。是非ウェブサイトをお訪ねください。

 末筆ながら、ご多忙の中、当シンポジウムにご参加いただきました皆さまに、心からの御礼を申し上げます。ありがとうございました。