第111回 ワークショップ
試されるコミュニティ・スクール
-待ったなしの教育危機に経営学は何ができるか-

日時/2023年6月25日(日)13:30~17:00
場所/神戸大学大学院経営学研究科本館2階208教室
Zoomによるオンライン(ハイブリット開催)

講演

1.コミュニティ・スクールの現在地
    三善 公文氏(神戸市教育委員会総務課政策係 担当係長)

2.5次元学校 たすけあい楽校 #C教育ネバーランド
  大熊 紀子氏(5G・IoTデザインガール/総合系コンサルティング会社勤務)

3.学校が地域を支え・地域が学校を支える
    石原 修氏
       (生活協同組合コープおきなわ 理事長スタッフ まち・ひと・ものづくりサポーター)

パネルディスカッション

<パネリスト> 三善 公文氏、大熊 紀子氏、石原 修氏
<モデレーター>松嶋 登(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

第一報告 コミュニティ・スクールの現在地

 

 

三善 公文氏
(神戸市教育委員会総務課政策係 担当係長)

 

今、学校運営協議会がなぜ必要か

  私が初めて教壇に立ったのは今から40年前になります。現役時代、子どもたちには、「君たちは、今は大人から受け入れるばかりだが、今後は、あなたたちから何かを出して社会のためになることをしなさい」と言い続けてきました。現在退職して3年目ですが、その約束を果たすべく、今は地域の高齢者、小・中学生、障害のある人に卓球を教えています。

 コミュニティ・スクールの肝は何かというと、学校と地域住民などが力をあわせて「地域とともにある学校」への転換を図ることです。他人事ではなく自分が学校を良くする気持ちを持つこと。そうでないと、今の日本の教育は滅びるのではないかと思われます。私が小学生のとき、父からある言葉を何度も聞かされました。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」という言葉です。つまり、行動しろ、評論家になるな、実践者になれということを何回も言われました。

 もう一つの父からの言葉は、島津藩に伝わっているいろは歌の一部で、「いにしへの道を聞きても唱えてもわが行ひにせずばかいなし」です。いくら理論を身に付けても、一歩踏み出さなかったら何にもならないということです。総じて日本の現状はそんな状態になっていて、賢い人はたくさんいますが、行動力を伴う人がいないのです。当事者意識を持って、学校教育の課題に知恵を出し合う。これが学校運営協議会の肝です。例えば、炭鉱の中にガスが充満していると人が死ぬので、カナリアを先導役にして、カナリアが鳴かなければ人は入りません。つまり、教育がこれだけしんどいということは社会もおかしいということです。そこに気付けているかどうかということになります。教育は教育のことをやって、経済は経済でグローバリズムをやればいいでは、足元をすくわれて、どうしようもいかなくなることは10年前から分かっていることです。文部科学省(以下、文科省)もこれは危ないぞということで、学校運営協議会の仕組みをできるだけ早く広めたのではないかと思われます。

 企業も今、学校向けのプログラムをたくさん持っていて、テーブルの上に並べているのですが、現場はなかなかフォークとナイフで切ろうとしません。切れない理由があるからです。それを知らずに、やれといっても無理な話です。相手がどういう状況か、今の教育現場がどうなっているかを把握しない限り、いい知恵があっても全く入っていきません。今の教育現場における一番の問題はそこです。やればいいと言うのですが、やれない理由があるのです。今回はそれについてお話ししたいと思います。

インフラとしての「学校」を見直す

 コロナ以降、「グレートリセットの時代」といって、社会を振り出しに戻そうという動きが生まれています。地震などの災害もそうですが、ありとあらゆる出来事には必ず意味があって、そのことを契機にして何かが前に進んでいきます。今年は2023年で、100年前に関東大震災が起こりました。その後に賀川豊彦[1]は、生協(生活協同組合)を作っています。何か社会的な出来事が起こったら必ず何かが変わらないといけないということです。

 教育の世界も、答えを求めるのではなく問いを求めることが大切です。これからの社会をどうしていくか、みんなが幸せになるにはどうしたらよいかという問いです。薩摩藩の郷中教育[2]は、問いを見つけていく方式で、対話的で深い学びはここにあります。郷中教育は、海外からも非常に高い評価をもらっています。

 そして Teach から Learn への転換も行われています。これまでは、レベルのそろった人材を産業界に一定数送り出さなければならないということで一律に Teach でしたが、今は違います。それぞれにカスタマイズされた Learn が必要なので、ものすごく手間がかかります。子どもの数が減るから教員の数はこのままでいいと考えているようですが、それは現場を何も知らないからです。教員不足はものすごく大きな課題です。

 Well-Being、選択と集中、そして Cooperation と Collaboration も重要になっています。Cooperation は足りないところを助け合うことであり、Collaboration はそれぞれが持っている良さを紡ぎ合わせて新たな価値をつくることです。学校運営協議会で、今は Cooperation をやっているのか、Collaboration をやっているのかを明確に意識しないと、全く違うものができてしまいます。Cooperation と Collaboration は似て非なる言葉です。

 社会における学校の役割について、株式会社ベネッセコーポレーションが調査したところ、職業希望調査で教師が1位になったというニュースが出ていました。これは、コロナ禍で自分たちを体を張って守ってくれたのは学校の先生だという認識が強くなったからです。

 学校は社会的なインフラだと思っています。いくら優秀な産業人・企業人が社会に出たところで、子どもを預けるところがなければ安心して働けません。大雨で警報が出ると、警報を出しているのは気象庁にもかかわらず、学校に「なぜ警報を出すんだ。警報が出たら仕事に行けない。」と抗議電話がかかってくるようですが、それは社会の有り様が間違っています。社会的インフラである「学校」という制度をもう一度見直し、再認識・再検証・再定義・再構築していかなければならないのです。ただ問題は、これを考える人がどれだけいるかということです。家庭では子育てがあるし、仕事にも行かなければなりません。心に余白がないとそんなことは考えられないのです。そもそも、そこが社会の大きな問題であり、もう少しゆとりのある社会にならないと、いい学校教育は構築できないのではと危惧しています。

学校運営協議会とは

 学校運営協議会は、課題を整理したりつかんだりするシンクタンク的な部分と、それを活かして働く頭脳と手足の二つの部分に分かれます。本体のところで、学校の非常に大きな問題が全部網羅されています。

 コミュニティ・スクールの大きなテーマは、特色ある教育活動、総合的な学習、学力・体力があります。特に体力はコロナ禍以降、がた落ちしています。フレイル[3]の高齢者が顕著に増えているという新聞記事なども目にします。そして不登校対応、虐待、PTA改革、特別支援教育も大きなテーマとなっています。

 学校運営協議会のメリットを四つ挙げました(図1)。私が一番大事にしたいのは、地域の部分です。激しい学校現場の管理職を経て、60歳を過ぎて昼間の町内会の様子を知りました。地域の中でボランティア活動をしたときに、自分がここにいていいのだという生きがいや自己有用感を持つことができるのです。本来それは、現役で働く誰もが持たなければならないのに、それがごっそり今の日本から抜け落ちているのです。

学校運営協議会から抜け落ちる「地域」とその背景

 その原因は、共働き世帯の増加です。私が教師になったのは1980年代以降ですが、これほどドラスティックな40年間はありませんでした。専業主婦世帯と共働き世帯が2000年ごろに逆転し、私が教員として勤務した前半の20年と後半の20年では全く様相が違います。

 私の初任地は千葉県の小学校でした。保護者のお母さん方も余裕があって、懇談ではお菓子の差し入れや、家庭訪問では「ちょっと寄っていって」と声をかけてくれたり、非常に牧歌的で人間的な営みの中にありました。しかし今は時間と余裕がなくなったので、クレームが非常に多くなりました。そのクレームに最初にやられるのは若い先生です。それを見ている他の若い先生も恐怖におびえています。

 私も経験があるのですが、日曜日の「サザエさん」が始まると、胸がきゅんとなります。しかも千葉県での一人暮らし、テレビで大阪のコマーシャルなどが流れると「ああもう帰りたいな」という感じでした。そのような先生が全国各地にたくさんいて、辞めていってしまいます。

 図2は小学校の児童・生徒の推移です。驚くことにこの40年間で子どもの数は半分になっています。半分になっているのにこんなに問題が出てくるのは逆説的で、やはり兄弟関係や地域社会など、子どもの周囲にある一定数の人がいないと人間関係を結ぶ練習ができません。ここ20数年で、一人っ子の数も多くなったという肌感覚です。

 私の母は8人きょうだいですが、8人も子どもがいたら、親は適当にしなさいという感じで、いちいち細かなことに構っていられません。ところが一人っ子になると、客観的には大したことではなくても、その親御さんからすれば「わーっ」となってしまい、そういった保護者が放課後、学校に電話をしてきます。しかし、今の学校は、時間外には一切電話を取りません。それが今の学校の多忙化対策の一丁目一番地であるからです。

教育現場の悲鳴 ー疲弊する教員の現状ー

 図3は教員採用試験の倍率の推移です。ピークは13.3倍でした。人材の質としては3倍を切ると非常に厳しいといわれています。競争率はピーク時(平成12年:2000年)から下がり、小学校は約2.5倍、東京都は2倍を切っています。1.8倍となると、採用試験の当日に来ない人もいますし、他府県の採用試験も受験できるので、全員採っても欠員が出る状況です。教育が社会のカナリア的存在だとすると、国の根幹を担う教員の倍率がこれだけ落ちているというのは非常に危険なことです。これを社会でどうにかしないと危ういと思っています。

 工業化社会から情報化社会へと変化し、これまでと時代や産業構造が大きく異なり、求められる力、思考、発想も変わっています。ところが教育は社会の変化に対応してきませんでした。工業化社会では、大量生産・大量消費が基本となっていましたが、今は個別対応が必要とされる時代になっています。教育は、大きなタンカーが海洋を進むのと一緒で、「こっちだよ」と言われて、おいそれと舵を切れるものではありません。タンカーが舵を切っても、しばらくタイムラグがあります。そのタイムラグの間に埋もれてしまった問題が噴出しているので、それをどうするのかです。そこで、学校運営協議会でいろいろな知恵を出そうということになっています。

 また、35人学級で、発達障害の子どもが3.6人、特異な才能のある子は0.8人、不登校は0.5人、不登校傾向が4.1人、日本語が話せない子が1.0人、家庭の文化資本に非常に問題のある子どもが10.4人います。社会がこれだけ変わっているのに、昔ながらの担任1人でこういう種々雑多な子どもを見ることが可能なのかという大きな問題もあります。

 それから、虐待です。図4は神戸市のデータですが、わずか20年で相談件数は50倍に増えています。職員が足りるわけがありません。私も学校現場にいるときに相談を受けたことがありますが、対応される職員の方々は、それはそれは涙ぐましい努力をしています。学校現場から見ても、社会の実態に制度が追いついていないことを実感します。

 地域の人が虐待に気づいたらすぐ警察に通報してくれるといいのですが、まず学校に連絡が入ります。子どもの安全確認を行い、重大な事案で速やかに保護が必要な場合は、子どもを親から引き離し、一時保護の対応が取られます。すると、親は学校に対し、怒りやクレームをぶつけ、威圧的態度で迫ってきます。こうした非常に厳しい現実がある中、学校現場としては、まず子どもの命を最優先にした対応を取る必要があります。

 図5は文科省が出している勤務時間外在校時間のデータです。昭和40年(1965年)ごろの先生は月8時間程度の時間外在校時間でしたが、平成28年(2016年)では小学校が月59時間、中学校では月81時間です。虐待の問題もそうですが、社会で何か問題があると、すぐ現場に、「ああしろ、こうしろ」と指示が来るので、ものすごい仕事量になります。それに見合うだけの給料は恐らく払われていないのですが、在校時間を減らせない状況です。

 私が教員になりたてのころは、教員の平均年齢が高く、1人の若手を3人のベテランが支える、いわゆる「お神輿型」といわれる形でした。しかし今は、ベテランが少なくなり若手が多いので、私は「鵜飼い型」と呼んでいます。ベテランに仕事が集中するので、鵜飼いの綱が切れることもあります。支えがなくなった若手は耐えられず辞めてしまいます。若者がなぜ離職するのかというと、フォローアップするシステムが崩壊状態にあるからです。

 全国的にもそうですが、神戸市では「社会に開かれた教育の実現」を目指しています。今の学校がいかに社会に開かれていないかというアンチテーゼがあるからです。私も、学校の壁が高いなと実感しています。中にいるときは全く思いませんでしたが、外に出てみると万里の長城のようにとても高く感じます。これをどう崩すかということです。文科省は地域にNPO法人をどんどん入れるように話しています。

  学校の現状がどうなっているのか、知らない方もいます。学校運営協議会でアクションを起こす前に、共通の認識を持たなければなりません。学校運営協議会では、校長先生がありのままの学校の様子を吐露します。協議会のメンバーは準公務員で、報酬が出ており守秘義務があります。虐待、不登校、学力、体力、今の学校はこうだけれどもどうしましょうかという、ありとあらゆることをみんなで共有するのがまず第一です。
 神戸市では令和4年(2022年)度に全ての小中学校に学校運営協議会を導入しましたが、まだまだ制度の枠組みが先行していて中身を充実させようと懸命に取り組んでいます。

学校運営協議会の居場所づくりを通した不登校問題への取り組み

 学校運営協議会がやらなければならないことを具体的に見ていくと、まず学校にとって一番の悩みは不登校の問題です。爆発的に不登校が増えています。神戸市東灘区の本山中学校は、家庭も保護者もしっかりしていますが、不登校の子どもたちが増えています。それはここだけではなくて神戸市の「良い学校」といわれる他の学校も同じです。なぜなら、周りはみんな勉強ができるので、ちょっと勉強ができないと、自分は駄目なのではないかと心が折れてしまうからです。

 図6は、本山中学校における不登校の子どもたちへの実践事例です。本山中学校では学校運営協議会のメンバーに塾の先生を入れています。民生委員から紹介された方で、本山中学校からこの塾に通って関西学院大学や同志社大学などに進学する子どもたちも多い塾です。こうした塾のOBの大学生が、母校である本山中学校を訪ねて、不登校の子どもたちの話し相手や学習支援など一緒に何かできないかを相談します。最近の企業は学生時代にどんなボランティアをしたかということを採用の際に加点するので、そこをうまくくすぐりながら学生の自己有用感も高める効果もあります。学生ボランティアは教職を目指す学生を中心に募集していますし、高校の校長先生が、不登校でも行く学校はありますよと保護者に手厚く案内しています。高校にとっては、少子化の中、受験生の裾野が広がることはありがたいことなので、win-winの関係になっていきます。 

 学校も企業と同じように顧客のニーズをつかむことが非常に大事になっています。学校がニーズをつかむのに何をするかというと、保護者アンケートをして、校長が全て整理しています。膨大な仕事量ですが、ものすごく効果があります。例えば、修学旅行先を沖縄から東京に変更したら、なぜ、変更したのかという質問がありましたが、校長が変更理由をきちんと説明されています。これがだんだん定例化すると、保護者が疑問に思うときでも、「あの校長先生だから、何か理由があったのだろう」と、解釈します。そういう仕掛けになっています。保護者から「学校っていいなと改めて思いました」という感想も多くありました。

 神戸市灘区の摩耶小学校の運営協議会では、もし自分が「学校長」だったらという想定で、案件に対して学校長として自分ならどういった判断をするかという「着ぐるみ感覚」という仕組みを作りました。例えば、恒例になっていた音楽行事について、このまま続けるかどうかということについて、グループに分かれて話し合い、それを学校長が判断するという方法です。

 神戸市東灘区の住吉小学校ではコープこうべとNPO法人が連携して、放課後の学習が盛り上がっています。中学校は不登校の問題、小学校は親が仕事から帰ってくるまでの放課後の子どもの居場所をどう作るかということが、他の学校と同様に課題となっています。そのためのボランティアを募る場合、新聞折り込みを入れるのですが、そのお金もコープこうべが負担しています。

 昨年は二つの学年が対象でしたが、今年は四つの学年に広がりました。学校運営協議会のメンバーでもある活動のリーダーがシニアの方々と活動に加わり、これらの人たちの居場所も作りながら大きな社会貢献を実現しています。双方にメリットがあって初めて流れに乗れますが、一方的な活動のパターンであれば活動がだんだん廃れ長続きしません。ですから、両方にいかにメリットを持たせるかが重要になります。

学校と企業の連携

 連携の例としては、水産関係の企業が東須磨小学校と連携しています。東須磨小学校では、クリーン作戦を行うときに地元の水産業の人が参加して、5年生の社会科の学習に協力しています。教育課程の中に漁協が入った新たなプログラムを作って、地引き網を引いたりしています。最初から企業に「一緒に手をつないでやりましょう」と声をかけても絶対にできません。何のきっかけもないのに大上段で「やりましょう」と言うのは一番うまくいかないパターンです。それは私も40年間で嫌というほど感じています。運営協議会のメンバーのつてなど、何らかのきっかけが必要だと思います。

 私が最後に勤めた六甲アイランドの向洋小学校では、空港に勤務する方々にキャリア教育の一環で来ていただきました。企業はプログラムを持っていますが、その都度、運営協議会を通していたらスピード感がなくなります。前もって保護者に「校長の一任でやらせてほしい」と許可を取っておかないとスピーディにできません。年度当初に、今年は企業を招いてよいか許可を取ってやっていました。

 海運関係では川崎汽船です。向洋小学校の子どもたちは毎日コンテナを見ていますが、中身を全然知りません。そこで、社会科の海運の授業の中に入れ込み、川崎汽船の方がコンテナ船を子どもたちに見せてくれました。

 総合電機関係ではパナソニックが、自分たちのやっていることが社会にどのように関わっているかを教えたいというプロジェクトチームを持っているので、来てもらいました。担当者は、非常に熱心に子どもたちに話してくれます。「会社で働いているのと、ここでしゃべっているのとどちらがいいですか」とこっそり聞いたら、「こっちの方がいい」と言っていました。企業側も、自分たちの社会的な役割を公教育の現場に下ろしたいという気持ちを皆さん持っているのです。

 NPOの子ども食堂も垂水区で幾つか立ち上がっていて、今はちょっとしたブームになっています。

求められる学校運営協議会のあり方 ー人と創る学校教育ー

 向洋中学校の運営協議会には多彩なメンバーが入っています。コープこうべの本部長や六甲アイランド高校の校長先生、NPO法人輝かすみが丘、NPO放課後学習支援の会も入っています。ここのメンバーが住吉小学校に行って、一緒に取り組んでいます。文科省が協議会にNPOを入れようとしているのは、現在一番新しい仕組みを持っているからです。

 協議会のメンバーにはそれぞれ固有の役割があります。PTA・保護者関係は直接の当事者という役割があります。

 地域関係団体は、例えば、ふれあいのまちづくり協議会(ふれまち)には80歳ぐらいの人がいて、地域人材への懸け橋になってもらいます。ここにこんな人がいるよ、世の中はこうならないといけないのではないかという大きな羅針盤を示す役割です。

 NPOや企業は学校教育活動のサポート、児童館やのびのびひろばは、居場所づくりの役割があるので、民生委員の方々に橋梁を依頼することが多いです。

 そして、施設開放です。学校開放をしているので、お父さんが参加して子どもたちとドッジボールや野球などをやっています。この人たちに地域づくりの担い手をしてもらえばどうかということでやっています。例えば、少年野球のコーチは、子どもたちのためだけではなく、コーチ同士のつながりも強く求められます。子どもたちを仲立ちにして自分の居場所を作っているのです。そういう価値をどうやって見つけていくかということです。
 それから、有識者です。大学の先生は俯瞰する視座、社会とのつながりを持っています。今は専門家はいるけれども人物がいないといわれ、束ねて道しるべを出す人が誰もいないのです。有識者が入っているところはたくさんありますが、もっと入れるべきではないかと感じます。
 神戸市ではこれからの教育の姿を「人がつながり ともに創る みんなの学校」と定めています。キーワードは「創る」です。1あるものを2にし、3にすることは誰でもできますが、0から1を創るのはなかなか骨の折れることです。しかし、そこに注力していかないとこれからの学校教育はうまくいかないと思います。学校運営協議会をやっていくのは大変ですが、ようやくスタートの位置に着きました。
 地域のために一生懸命汗をかく人の背中を見た子どもたちが、立場が変わったら今度は自分がそこに行く、これも大きな意味での教育です。そういう場面をたくさん創っていくことが、間接的に次の地域の担い手を創っていくでしょう。そこまで考えながら、親はどう動くか、地域の人はどう動くかということが社会的に非常に大きな課題になっていると思います。


[1]賀川豊彦:大正・昭和期のキリスト教社会運動家・社会改良家。戦前日本の労働運動、農民運動、無産政党運動、生活協同組合運動、協同組合保険(共済)運動において、重要な役割を担った人物。博愛の精神を実践した「貧民街の聖者」として世界的な知名度が高い

[2]郷中教育:今から400年以上前に確立され薩摩藩独特の青少年教育。「郷」とは、薩摩藩の地域を小単位に分け、郷に住む6歳以上の男子が郷中教育の対象。年齢により階層がわかれ、先生は不在で、上のものが下を指導するということが、学問、武術、心の鍛錬に関しても細かく行われていた。その教育方法は上(藩)で定めたものではなく、自主性を重んじて郷ごとに独自に行われ、卒業がないのも特色。島津日新斎忠良の記した「薩摩(日新公)いろは歌」は、郷中教育の基本となる理念や教典のような位置づけである

[3]フレイル:病気ではないが、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態

 

第二報告 5次元学校 たすけあい楽校 #C教育ネバーランド

 

 

大熊 紀子氏
(5G・IoTデザインガール/総合系コンサルティング会社勤務)

 

 
  第6期5G・IoTデザインガール[1]の大熊紀子です。まず、簡単な自己紹介をします。私は、大学では政治経済学部で地方財政論について学び、地方行政に携わる機会があったことから、行政の利潤追求ではなく住民福祉の最大化を使命とするところに惹かれました。中でも地方分権の取り組みにより、これからは地方の力がより必要とされる確信があったことから、地方行政に興味を持ち、新卒で神奈川県の鎌倉市に入庁しました。

 鎌倉市では、直接住民と接点を持つような現場の仕事から経営企画、人事給与等の管理業務など幅広い仕事に携わりました。その中で現場の疲弊感や時代や住民のニーズの多様化にスピーディーに適応できない行政の問題・課題に触れ、現場で解消できることに限界を感じ、もっと上流にある根本的な課題と向き合い改善したいという想いから鎌倉市を退職し、今は総合系のコンサルティングファームで働いています。現在は、パブリックセクターという部署で中央省庁、私は特に厚労省メインで行政DX等のバックアップをしています。5G・IoTデザインガールは、このコンサルティング会社の中で募集があり、私は第6期メンバーとして昨年から活動に参加しています

5G・IoTデザインガールとは ー共感力と技術を活かしたアイデア創造ー

 5G・IoTデザインガールは、デジタルとイノベーションを自分事化し、生活者目線で日本、地域の活性化に向き合う活動です。さまざまな企業から募集された女性が集まり、女性ならではの共感力を活かして地域に共感し、人と人とをつなぐ活動の中で、特に5GやIoTなどデジタルの技術を活用して新しいアイデアを生み出すきっかけを作ることを活動の目的としています。

 デジタルは結構地味なものだ、デジタルを隅々まで展開させるには草の根活動が必要だ、一人ではなく多くのカタリスト(伝える人)が必要だ、地域の課題に共感することが重要だというところから始まった活動です。

 このモデルになったのが、「アグリガール」の活動です。これは女性(アグリガール)が実際に農業現場に入り、働く方々と交流を持つ中で、新たなソリューションを提供し、一緒に課題を解決していくプロジェクトです。アグリガールは相手への共感から入るため、知の共有が加速されます。人の役に立つという共通善を志向するため、多様な当事者を引き付ける引力を持ち、利他や共感といった人間力を基にした活動により経営の活性化をもたらします。

 私たちデザインガールのバックグラウンドはさまざまです。それぞれの会社でやっていることも違いますし、元からITの知識や知見があるような方々ばかりでもありません。どちらかというと女性ならではの柔軟な視点を基に、一生活者、一社会人としてこんな社会課題があるという実体験からの気付きの中で課題を発見し、どう解消できるか、そこにITなどの技術がどう関われるかを、生活者目線で考えていく活動になっています。

 IT、AI、5G、IoTなどは近年ホットな話題だと思いますが、デジタルと実際の現場ではまだ乖離がある業界が多く、デザインガールがそれをつなぐ人材になることを期待しています。
 昨年度は、年5回ほど講義とワークショップが実施され、最終的に各グループで一つの課題を選定して、それに対するソリューション案を発表しました。今回は、私たちのグループが発表した内容をご紹介します。

5G・IoTデザインガールが考える、今、学校が抱えている問題とは

 私たちのチームは特に教育に注目し、教育現場が抱えている課題はどんなことがあるのか、ITを活用してどう未来につなげていくかを考え「5次元学校 たすけあい楽校」というソリューションを提案しました。「たすけあい楽校」が、どのようなものなのか説明します。

 まず、解決したい社会課題の選定にあたり、誰一人取り残さない、子どもから大人まで誰もが well-being を感じられる世の中にしていきたい、子どもたちが未来への希望を持って生活できるような世の中にしていきたい、そういう思いが私たちグループメンバーの共通認識としてあり、そのためには教育が大事だろうということで、「教育」をテーマとすることにしました。

 そこで私たちは、今の子どもたちを取り巻く現状について考えました。増加している共働きやひとり親の家庭では、保護者が子どもと接する時間が減少しています。子どもも、一人っ子が多いです。地域の方々とのつながりも希薄な中、学力だけでなく、人間関係構築力(コミュニケーション能力)、情操教育、社会性の学びに至るまで、学校に子どもの「教育」が頼られているのではないかとの仮説を立てました。一方で、学校の課題としては、特に先生の労働環境の改善が急務と考えました。勤務時間の長時間化が進み、統計資料によると教員の1日の平均労働時間が11時間30分以上になっています。過労死ラインは月時間外労働80時間以上といわれていますが、それを超えている教員が中学校で6割、小学校で3割というデータがあります。

 統計データだけでなく、現場の生の声を確認するため、実際に都立の小学校に勤めている先生2人と公立中学校の学校事務員の方に話を聞きました。共通していたのは、先生の働き方としては、「とても忙しくて休み時間もない」とか、女性の先生は「子育てと仕事を両立するのはすごく大変」「家に持ち帰って仕事をするしかない」という状況でした。
 職場環境に関しても、「ITリテラシーが低く、タブレットの活用に四苦八苦している」という声や、「SSS(スクール・サポート・スタッフ)という軽作業を依頼できるようなスタッフがいるが活用が難しい。何かお願いするにもタイミングが難しくて自分がやった方が早い。来てほしいときにいない」という声もありました。また、「予算がなくて物品が買えない」という実態もあり、ヒト・モノ・カネの全てが不足している教育現場の状況が見えてきました。

 社会の変化としては、「悩みを抱えた生徒や保護者が多くなっている」「今まで家庭で教えていたことを『学校で教えてほしい』と言われる機会が増えた」「いろいろな事情を抱えた子どもが増え、特別支援学級の需要が高まってきた」という声がありました。そうした社会の変化の中で、ヒアリングした学校関係者の方々は共通して、「もっと時間をかけて子どもたちと接したい」「学校にいる間は子どもと接する時間に充てたい」という強い気持ちを持っていることが分かりました。

 図1では、学校の先生が抱えている仕事をピラミッドで表現しています。学校の授業や生徒指導はもちろん、それ以外に家庭相談、部活動、課外活動の準備・企画、授業に関係のない経理などの業務、これら全てを先生が1人で行うことが大きな負担となっています。一昔前と比べて先生の担う仕事が増えていると考えられます。このような教育現場の状況分析から、私たちは、先生は授業や生徒指導のプロなので、そこに注力してもらい、その他の部分を地域のサポーターに任せることはできないか、そうすれば先生の負担も減り、サポーターの方々の生きがいややりがいにも結び付くのではないかと考えました。

新しい教育の形「5次元学校 たすけあい楽校」

 そこで私たちが考えたのが「たすけあい楽校」です。「たすけあい楽校」は、「リアルでもアバターでも通える5次元学校」です。オンラインスクールに少し似ているかもしれません。子どもたちがアバターを使って、実際に教室で授業を受けたり、部活動ができるようにします。
 バーチャルでの活動もあれば、オフラインでの活動もできるように構成します。例えば、バーチャルであれば、地方の学校でダンス部に入りたいと思っても一緒にやってくれる仲間がいない子が、オンラインの力を使うと、全国各地の一緒にやりたい子どもたちとダンスをすることができます。オフラインの活動としては、地域の飲食店に協力いただき、実習形式による食育体験のような授業を、オンラインのプラットフォームを使って募集をする企画ができたりします。
 サポートの面では、先生が、事務仕事が大変で手が回らないときに、求職活動中の方が経験を積むため事務作業を手伝ったり、放課後の部活動指導まで手が回らないときに、仕事以外で自分の趣味やスキルを活かしたいという社会人の方が子どもたちの部活動をサポートしたりします。ここで重要なのが、困っている先生を助けるだけでなく、サポートした側もスキルアップややりがいといった対価を得られることです。(図2)

 学校になじめない子どもや不登校の子どもの勉強や学びを、大学生・社会人・セカンドライフ世代の方々がサポートするプラットフォームを作ったり、保護者が抱えている育児の不安をセカンドライフ世代や子育てを終えた方々や専門家にも相談できるような仕組みづくりも、オンライン技術を使えば、オフラインよりも手軽かつ地域差に左右されない品質を担保して展開できると考えています。
 普通の学校は、実際に通ってその場で学びながら、リアルで認知能力や非認知能力を上げていく取り組みになると思います。「たすけあい楽校」はリアルとバーチャルのハイブリッドなので、リアルで行わなくてもいいものはオンラインで行えるようになっていて、目的も、学習塾のように学力向上だけに特化せず、非認知能力の向上や部活動、課外授業なども全て網羅できるようなものにしたいと考えています。

「5次元学校 たすけあい楽校」の実現に向けて

 図3はマネタイズの仕組みです。「たすけあい楽校」は、基本的に子ども・先生・保護者・学校が利用できます。サポーターとは、社会人、企業の方々、引退したセカンドライフ世代の方々で、サポーターが提供するスキルに対して報酬を支払うことによって雇用も創出できるのではないかと考えています。「たすけあい楽校」の運営資金は、学校の代わりをするので行政からの委託料や企業や個人スポンサーからの寄付を想定しています。こちらは、まだまだ熟度が足りない部分もあるかと思料しますが、貧困家庭の子どもたちも利用できるよう、極力受益者の負担を減らしたい意図で考えています。

 先生や学校にどんなメリットがあるかというと、例えば先生側であれば、事務作業をやってほしいときに、スマホなどのプラットフォームから「この作業をお願いしたい」と募集すると、地域の方々から「今、手が空いているからやります」と手が挙がる。そんな仕組みができるのではないかと考えています。

 子ども側のメリットは、いつでもどこでも地域差なくいろいろな活動に参加できます。地方の学校では生徒数が少なかったり、自分がやりたい部活動や学びがなかなか得られない状況もあります。デジタル技術を活用すると時間や場所を超えて、学びたいと思ったことを自分の力で学ぶことができるため、子どもたちの可能性を広げる機会となるものと期待しています。

 「たすけあい楽校」には「保健室」「食堂」「事務室」「授業」などのROOMがあります。例えば保健室に入ると相談相手がいて、子育ての悩み相談ができたり、不登校の生徒が誰かと話すことができたりします。先生が事務作業を誰かにお願いしたい場合は、事務室から依頼できる想定です。

 先生・子ども・保護者などの参加者は専用サイトで登録して、自分が入りたいROOMを選択して参加します。サポーターの方々も同じようにサイト経由で登録し、自分のスキルを活かしたROOMを自分たちで開設し、そこに誰かが参加してくれたときに授業を開講できるようにしてはどうかと考えています。

 当初は日本国内で実装できればと考えていましたが、デジタル技術を活用すると世界中の方々とつながることができます。時代のニーズやサポーターにどんな方々が入るかという点を考慮すると、活動の幅はどんどん広げていけるのではないかと考えています。ROOMの内容もあえて固定化せず、その時々のニーズによって変えられるのも、リアルの場所を持たない「たすけあい楽校」ならではだと考えています。また、子どもたちだけでなく、社会人の方々がそこで学び、生涯学習につなげられるような方向への拡大もできるのではないかと考えています。

 これは、今後具体的に動き出す予定があるものではありませんが、私たちなりに考え、教育現場で今どんな問題が起きているのか、それを解決するためにこんな未来があったらいいなという、夢を形にしたような発表でした。この発表を通していろいろな方と出会い、課題に対する考えを一緒にまとめていくことは非常にいい機会でした。教育現場の深刻な課題に向き合い、その解決策のアイデアを、多様な知見を持った方々の話を聞きながら考えていくことは大きな気付きにもなり、こういった活動に参加できたことは、経験として非常に良かったというのが、メンバーみんなの感想です。
 実際にこのプラットフォームを作り始めているという話ではないのですが、もしこんなことができたら今の教育課題が少しでも良くなるのではないかと思っています。絵空事のように聞こえるかもしれませんが、皆さんにとっても何かの気付きとなればうれしく思います。


[1]5G・IoTデザインガール活動報告が「incri」のWEBサイトNewsに掲載されています https://incri.jp/news/(2023年10月5日閲覧)

 

第三報告 学校が地域を支え・地域が学校を支える

 

 

石原 修氏
(生活協同組合コープおきなわ 理事長スタッフ まち・ひと・ものづくりサポーター)

 

生徒と考える商品開発

 コープおきなわの石原です。よろしくお願いします。沖縄はシークヮーサーの生産が盛んですが、すごく余っていた時期がありました。余剰は約5000トン、うち約6割を大宜味村が作っていました。その大宜味村から何か良い方法はないかと相談があり、中学生と一緒に総合学習の時間を使って商品を作りました。

 カップケーキを作ったときは、コロナ禍で売る機会がありませんでした。通常なら店頭販売で職場体験をするのですが、子どもたちはリヤカーで5か所ある公民館に運び、行政と一緒に呼びかけて販売体験をしました。

 私が地域支援を始めたきっかけは、コープは3次産業に属し、私はバイヤーや店舗づくりの仕事をしていたのですが、自分の仕事は本当に沖縄のため、地域のためになっているのかと考えることがありました。バイヤーの仕事は、少しでも安い方が売りやすいので、一生懸命たたいて駆け引きばかりして、安く仕入れるための商談をします。でも、それではパイが膨らまないと感じました。それよりもみんなが知恵や力を合わせると、100のパイが200にも300にもなったのです。例えば100を駆け引きで分け合っても、40:60か50:50にしかならないのですが、300になれば多くの人たちと分け合っても実入りが大きいと感じたのです。

 当時の背景として「15の春」というのがありました。離島の方は聞いたことがあると思いますが、沖縄では当たり前にある言葉です。沖縄には37の有人離島があり、高校があるのは三つの島だけです。つまり、中学卒業と同時に島を離れることになります。大学に行かせるのと同じで、費用面で親の負担も大きくなります。そこで何かできることはないかと考えました。当時は高校に進学するも、途中でやめてしまう離島の子が意外と多かったのです。1人で部屋を借りると、いろんなことに興味を持つ年頃ですから、酒を飲んだり、たばこを吸ったり、女の子は妊娠して中退する事例もありました。

 そこで、商品をあくまでもツールとして、その地域の人たちの誇りを作れないか、未来を描く力を作れないか、人材育成について一緒に考える場にならないかと考えました。

高校の存続問題から始まった商品開発授業

 先日、青森県三戸町に行ってきました。三戸町では高校の存続問題が浮上しています。30年前、1万4000人だった町の人口は現在、8600人にまで減少。現在、三戸高校は全校生徒88人で、1学年30人を切っている状況です。青森県では入学者が2年連続20人を切ると新入生を受け入れないという規定があり、自然廃校になります。周辺地域では高校の廃校が進み、これを何とかしたいというのが教育委員会の思いでした。そこで、高校の魅力化と地域の一体感醸成のために商品開発ができないかという依頼がありました。

 私は三戸町での商品開発プロセスとして次のことを挙げました。核になる人たちが燃えて初めて周りの大人が影響を受けますから、まず高校生に火を付けたい。そして、本気の大人がチームを支えるような仕組みを作り、関わっている人たちがやるべきことを見通せるようなものを作りたいと考えました。三戸町には3回行く約束をしていて、いろいろな人たちに先生としても関わってもらう予定です。次回は、生徒の持つ能力を最大限に引き出すことを柱に、そのときの授業に向き合うための心構えを獲得目標にしました。生徒に成功体験を味わってもらうと同時に、できた商品をどう活かすかもみんなで考えたいと思っています。

 高校生には、事前にアンケートを実施しました。三戸町の強みは、ニンニクをたくさん生産している、リンゴの生産、それから『11匹のねこ』という絵本作家の馬場のぼるさんの出身地であることも挙げられていました。一方、問題点、解決すべき課題は断トツで「人口減少」です。店が閉まっていて、若者が買い物に行ける場所がないとの意見も出ていました。

 そこで、生徒には、強みを活かしてまちの活性化に取り組もう、なぜ人口が減るのか考えてみようと投げかけました。このとき、教育委員会側は、学校の魅力化で高校生を他からも呼びたい、学校給食を実施したい、地域と一体化を構築するような授業をしたい、と非常に強い思いを持っている一方、学校現場の先生からは「打ち上げ花火ではないのか」「高校生が商品開発するのは他の高校でもやっていることではないか」「企画だけを考えて、商品化するリスクは負わなくていいのではないか」といった意見もあり、温度差がありました。

 人口減少はなぜ起こるのか、子どもたちに考えてもらいました。実は以前、国土交通省の離島の定住環境に関する有識者懇談会に出席したことがあって、どうしたら人が住み続けられるのかというテーマで議論したのですが、考えてもそんなにいいアイデアは出てきませんでした。ただ、50年前からなぜ人口が減少したのかをさかのぼっていくと、離島は分かりやすいのです。例えば全国の離島で50年前には100あった人口が今は42まで落ちています。沖縄は46まで減っていますが、その要因となるポイントがあります。

 一つは、子どもたちも挙げていた「仕事」です。二つ目は「学校」です。学校がなくなると人が減っていきます。三つ目は「医療」でした。例えば、子どもが生まれるときは1か月ぐらい前から島を渡り、産後も1か月ぐらい帰ってきません。さらに、その医療負担も大きい。この三つが人口減少に非常に大きく影響して、子どもたちからも「仕事の選択肢がない」など仕事面についての意見がたくさん出ました。

 そこで、みんなで産業への貢献と学校存続を実現する仕掛けを作ろうという話をしました。学校存続のために、本気で考えている大人がいます。廃校の危機に対して給食も始めましたし、商品開発も始めました。学力の底上げに向けた取り組みも地域は考えています。

 チームを作るときに、それぞれの役割を決めました。原料調達はどこがやるのか、商品開発の主体はどこが担うか、デザインはどこが受け持つか、などです。販売者はやはり地元が望ましく、記者会見や広報、ふるさと納税などの販売支援はどうするかということもあります。実はシークヮーサー酢でも同じようなことをしています。県庁で記者会見をしたら、NHKが7~8分ほどのニュースにしてくれましたし、各テレビ局や新聞も大きく扱ってくれました。ふるさと納税は大宜味村のトップに出てくるはずです。このような感じでみんなが協力しています。町長にもお会いして、「トップセールスは絶対に必要だから、町長自らぜひトップセールスをしてください」とお願いしました。共感できる旗があると効果的です。三戸町には、学校存続という地域の人が共感できる旗がありますから、それを活かしました。

 学校現場との新たな可能性の追求としては、生徒の学びと地域社会への貢献を両立できないかと考えました。総合学習の趣旨には、「未来を担う中学生の生きる力を育み、地域社会に貢献し、沖縄県・国際社会で活躍できる人材を育成する」と書いてあります。そこで20~24時間の時間をいただいて、中学生と地域ぐるみで取り組んできました。

 商品開発授業の狙いは次の三点です。一つ目に、地元で育ったことに誇りを持つことです。商品には当然地元の素材を使います。

 二つ目に、経済の流れや仕組みを知り、稼ぐことを体験し、親や周囲の人への感謝の気持ちを持つことです。親があなたを高校に出すためにかかるお金を稼ぐことがどれだけ大変か、自分たちも体験してみようと考えました。

 三つ目に、地元への貢献と働くことについて考える機会を作ることです。

 正解はないと思っているので、「だからこそ、みんなで話し合ってください、考えてください、調べてください。そして、よりよい答えを出してください」というふうにやっていきます。判断は皆さんに委ねます。実際に仕事をするのに教科書も参考書もないので、皆さんで考え、話し合い、決めていきましょうと話しています。

委託製造を用いた商品開発の仕組み

 恩納村は、沖縄一のリゾート地です。観光客が毎年500万人ぐらい泊まるような施設を持っていますが、残念ながら地元の調達率は2.4%でした。そこに国も問題意識を持っていました。そこで、どんなことをやろうかとみんなで話し合いました。

 図1にある企業や団体がメンバーとして関わっています。ナリス化粧品は、兵庫県の化粧品会社ですが、沖縄の企業レベルではサンゴに優しい日焼け止めは作れないため、大手の研究開発力を借りる必要があったので、関わってもらいました。

 恩納村の強みとしては、ここ10年で宿泊施設の収容人数が100万人増えました。長浜村長の肝いりでサンゴに優しい村をつくろうと「サンゴの村宣言」しました。また、村内に五つあった中学校が一つに統合されました。このようにみんなが協力しやすい環境があります。

 OEM(委託製造)の手法を使って商品開発に取り組んでいます。なぜかというと、例えばユニクロは工場を持っていませんが、マーケットと強いブランドを持っています。今の時代、誰でも商品のオーナーになれますが、OEMにはリスクが発生します。そのリスクを乗り越える方法をみんなで考えようと話し合っています。

 これは一つの事例ですが、コープおきなわがNB(ナショナルブランド)商品を作ったときに、ポッカと提携してOEMの手法を使った商品があります。図2の上段は一般的な流れです。例えばポッカの「さんぴん茶」という商品は、ポッカの工場から本体に入って、問屋を通って弊社に入ってきます。すると、発注単位は1ケース単位でよくて、24本発注すれば商品が手に入ります。1本100円ほどですが、宣伝やコマーシャルはポッカがやってくれます。

 一方、図2下段は弊社が作りたい商品を作ってもらう場合です。コープ商品は全てこの手法でやるのですが、1回ラインを借りると2万4000本作られます。この2万4000本を誰かが売らなければならないのですが、単価が100円から50円台まで下がります。工場を半日貸し切って動かし、できあがった2万4000本を10トントラックに積み込んで、弊社が指定する倉庫に入れます。2万4000本分のお金を一気に払うリスクが発生しますが、売れればもうかります。そうした商品を一生懸命作ってきました。

 特産品開発をする場合、普通は工場があるかOEMをするかのどちらかですが、どちらにもメリット・デメリットがあって、一番難しいのは売ることをクリアしなければなりません。そこで私は、中学生を核にして地域連携方式を取り、みんなで連携すれば売り切れるのではないかと考えました。

 本来であれば企業が利益追求のためにOEMを用いるのですが、それを課題解決に用います。例えば、恩納村はコロナ禍のときに観光産業が困っていました。地元調達率が2.4%しかないので、地域産業も育てて調達率を上げる方がいいのです。それから、環境を守り育てたいという村長の思いがあります。中学生の頑張りには、地域を一つにする力があります。ただ一方で、OEMの課題として、売れるためにはどうしたらいいかという問題があります。

 ハワイでは、サンゴに優しい日焼け止めしか売ってはいけないし、使ってはいけません。恩納村は「サンゴの村宣言」で世界一サンゴと人に優しい村を目指しているので、「サンゴに優しい日焼け止め」があった方がいいのです。しかし、残念ながら商品開発をする手立てを持っていなかったので、ナリス化粧品にお願いしました。

 行政や教育委員会の方と一緒に村内のホテルを回って話を聞くと、「私たちがここにホテルを建てたのは自然環境がいいからです。ここの環境が悪くなれば、私たちは出ていくことになるでしょう」ということでした。ホテル側も環境に配慮した商品があることに賛成です。残念ながら、条例制定はまだですが、当時の商品開発を考えた中学生は「何とか村議会を動かして条例化したい」と話していました。条例制定に向けて頑張ってくれるのではないでしょうか。

 また、沖縄にはたくさんのリゾートホテルがありますが、残念ながら代表的なお土産がありませんでした。そこで、恩納村を代表する商品として、パッションフルーツやアテモヤを使って商品を作りました。そして、売上の一部をサンゴを守るための基金にしました。サンゴの保護活動は、植付けに1本2000円ほど費用が必要で、意外と活動費が高いのです。その費用を捻出するために、この商品の売上の一部を充てました。

生徒が本気になる本気の大人の仕掛け作り

 授業の中では、売る人にとって、買う人にとって、世間にとって、良い商品とは何かということを考え、自分さえ良ければいいのではないということを伝えていきます。

 値段も子どもたちに決めてもらいました。「あなたは100円で商品を仕入れます。100円の商品を1000個仕入れるには10万円必要ですから、10万円を借金しました。あなたはこの商品をいくらにしますか」と授業で子どもたちに問いを投げかけます。子どもたちは、「200円にすれば、500個売れば返済できるから、あとの500個はもうけになる」と答えます。

 「買う側の立場に立ったらいくらがいいか」と尋ねると、「125円」と答えます。125円なら800個売らないといけない。125円で売るべきか、200円で売るべきか、議論すると、コープおきなわのバイヤーと大体同じぐらいの値段になります。こういう情報を与えれば、それほど大きなずれのない結論を出します。このような授業もしています。

 子どもたちには必ず、「自分たちで考えてね」「みんなで話し合ってね」「自分たちで決めてね」と言っています。さらに、「大人に答えを求めないでね」「恥ずかしがらず、嫌がらずにやってみてください」ということも伝えています。

 私はラオスで協同組合を作るプロジェクトをやっているのですが、ラオスは社会主義国なので、上からの統制が非常に強く、5名以上集まると党のスパイが聞きに来ます。社会主義国はデモも集会も禁止されているので、話し合うこと、考えること、決めることが苦手になっていきます。私が一緒になってつくった工場では37名の女性が働いていますが、半分ぐらいの方は読み書きができません。そういった状況を見ていると、自分で考えること、決めることは本当に大事なのではないかと思い、あえて中学校の授業でそれに取り組んでいます。このことが原点だと思っています。

 商品開発は難しそうですが、子どもたちとの開発プロセスでは、まずみんなで味を決めます。二つ目にみんなで容器を決めます。シークヮーサー酢のときには、紙容器、ビン容器、プラスチック容器の三つを提示すると、子どもたちは紙容器を選びました。ペットボトルに入れると安っぽく、瓶に入れると高くなります。紙容器は比較的安いのですが、ロット問題が出てきます。瓶はシールを貼ればいいのですが、紙容器は1回動かすと2000本売らなければなりません。瓶なら400~500本でいいのです。ペットボトルも多少ロットが大きくなります。こういうことを話して、「味を決めたら容器を決めよう。デザインと商品名も皆さんが決めるんだよ」といったプロセスで、中学生が全部決めていきます。

 値段も原価を出していくと大体これぐらいになるから、あとはどういう所で売りたいかという売り方を決めます。4~5名のグループを作ってもらい、そこでまず一つの結論を出し、今度はクラス全体で話し合って一つに決めていくというやり方をしました。当然、商品は一つしか作れないので、クラスで一つの商品を決めるための工程を取りました。

 大宜見中学校のシークヮーサーを使った商品開発の事例を三戸町に紹介しました。皆さんの開発した商品が、売れるように、長く続くように、三戸町役場が、地域が、企業が、農家が、道の駅がサポートします。決して打ち上げ花火ではありません、本気の大人が向き合いますという話をしました。

 協力してくれる皆さんが、担当する分野の先生として説明やお話をされます。例えばJA(農業協同組合)がシークヮーサーの農園に連れて行って話をしたり、教育長がこの取り組みの意味を話してくれたりします。私の役割は全体のコーディネートとお店での販売体験支援で、どの業者が一番適しているのかを調査して提案します。総合包装さんはデザインやネーミングの指導をします。問屋にもご協力いただき、地域協議会は販売者にもなるし、アンケートや普及にも協力しました。地元にお金を落とさなくてはいけないので、当然地元の商品にしなければいけません。ですから、最初から売る仕組みも考えておくのです。これが打ち上げ花火ではないという意味です。

 商品ができたら、図3のルートで商品を流します。コープおきなわでも、JAでも、道の駅でも、南島酒販でも売ります。学校給食でも飲むので、1億5000万本売っているのは偶然ではありません。最初からそういう仕掛けをしています。

 商品開発の授業は、図4のような流れでやっています。

 開発を通して大宜味のことも学びました。仕事や働くことについても考えます。当然、大宜味の原料を使った商品を作ります。「地元のみんなに喜んでもらいたい」「たくさん売って利益を残したい」「外国にも売り出したい」と生徒たちが言います。大宜味村の財政が非常に厳しいので、「村に寄付したい」という生徒もいました。

 伊平屋島では、授業でドラゴンフルーツのアイスクリームを作りました。ドラゴンフルーツは、赤い果肉を食べると唇が真っ赤になるので、生徒が「ドラゴンのキス」という名前を考えました。中学生だから出せたような気もしますが、私は、このネーミングは秀逸だと思っています。この商品は那覇空港でも売られていますし、伊勢丹の夏ギフトでも紹介していただきました。

 地元に評価してもらい、自分たちがやったことを客観的に評価するために、アンケートをしています。北大東の中学生と日焼け止めクリームを作ったときのアンケートが秀逸だったので紹介します。

 普通の日焼け止めクリームは50~60mg程度ですが、この商品は250mg入ったポンプ式の商品にしました。農業が盛んな暑い島なので、家族みんなで使ってもらいたいということでポンプ式にしたのですが、それを実際使ってみてどうなのかということ、日焼け止めを塗って白塗りにならないかも聞きました。また、香料に使ったシークヮーサーの香りについても聞いています。自分たちの思いで作っているので、客観的な評価としてどうなのかを確認するためです。

 それとは別に、私が北大東とは関係のないコープ九州にお願いして組合員アンケートをしたところ、かなりいい評価を得られたので自信を持って売り出すことにしました。

 もう一つ効果がありました。中学生がアンケートのお願いに回ると島じゅう、村じゅうの話題になって、口コミが広がっていきます。この力はすごいと思います。

 シークヮーサー酢を作った際は、「この商品をみんなで売りに行きます。何本売りたいですか」と問うと、「200本売りたい」「500本売りたい」というふうに目標数を出してきます。「では、どう売りたいか」と聞くと、「おいしい水で割りたい」「冷えた方がおいしいから氷も入れたい」「牛乳に入れるとおいしかったから、牛乳で割って飲みたい」などと意見が出てきました。そして、この商品は1本700円前後するけど、皆さんの本数を掛けたら全部で108万円になりました。でも、皆さんには108万円はないから、どこかからお金を借りてこようということになり、村長に借入を申し込むことになりました。各リーダーと担任、学校主任の先生が借用書に押印して、もしこの108万円を返し切れなかったら先生の車を売りますと宣言しました。こうなると、子どもたちも必死になってやります。

 販売前に県が全面的にバックアップして記者会見を開いてくれました。先生方は、子どもたちにはできないと話していましたが、生徒たちは、どんな質問が来るか事前に自分たちで問答を想定して、みんな堂々と答え、ちゃんと乗り切りました。いい宣伝になり、大きなニュースになりました。

 108万円を元手に1200本仕入れて、当日だけで31万円の利益が出ました。1本1kgぐらいの重さなので2本買ったらかなり重いのですが、生徒たちは2本売りたいので、「2本以上買ってくださった方、お荷物を駐車場までお運びします」とポップを作成して一生懸命販売していました。

 面白かったのは、おじいちゃんが10万円持って、孫に買いに来るように言われて、買いに来たことでした。そんなに買ってどうするのか聞くと、隣近所に配るということでしたが、売ることが体験ですから、10万円分買ってもらったら授業になりません。そこで先生と相談して、2本だけ買ってもらい、納得して帰ってもらいました。

 村のイベントにもみんなを引っ張り出して、1年間で2万5000本、約3000万円売りました。その一部を村の教育委員会に贈呈しました。子どもたちが頑張る姿は、地域に広がる力があります。

 このときの経済的効果を検証してみました。「10分の1経済」という言葉がありますが、「取るだけ出すだけ」なら10分の1経済です。例えばモズクの98%は沖縄で作っていて、末端市場は500億円あるといわれていますが、沖縄で回っているお金は50億円といわれています。

 シークヮーサーも取って出すだけなら9600万円のうち820万円でした。つまり8.5%です。子どもたちが商品開発して販売したので、二次産業的な利益として1本15円の教育支援を子どもたちに出し、それが8万パックで120万円になります。そのほかに、地元の女性グループなどが頑張って地元で売った分、つまり仕入れから販売価を引いた粗利が2360万円になります。これを全部足した3300万円が、地元の大宜味村に落ちています。加工して権利を持って販売すると、これだけの利益になりました。

 子どもたちは、外国でも売りたいと言っていました。それに反応して、新垣通商さんが香港で商品を売るルートで販売してくれました。その後の話は聞けていませんが、香港でも月300本ぐらい売れていたようです。1本108香港ドル、当時のレートで約1500円ですから、300円ぐらいは運賃がかかったのではないかと思います。

 教育支援の15円については、中学生の皆さんに「あなた方が使い方を考えて決めてください」と伝えました。1年目は30万円を記念植樹に充てて、校庭にシークヮーサーの木を植えました。2年目は首里城が焼失した年だったので、その再建のために40万円を寄付しました。3年目はコロナ禍に入っていたので、医療従事者の支援に50万円を贈りました。大人が変に強制しなくても、子どもたちはしっかりと考えて正しい使い方をするのだと感じました。

学校と地域との支えあいの中で生みだす商品開発

 なぜこのような成果が出たかというと、本気で考えた生徒たちがいたからであり、それに本気で向き合った大人たちがいたからです。商品開発は打ち上げ花火とよくいわれますが、こういう状態を作れば成果が出ます。

 例えば地域で特産品を作る場合、50~80万円ぐらいしか売れていません。でも、みんなで協力したらポテンヒットは作れる。ポテンヒット幾つかで1000万円ぐらいにはなるという話をよくします。こういう仕掛けをみんなで考えればいいわけで、そこに中心となる子どもたちがいて、燃えている子どもたちを大人たちが支える。関わる企業や団体もそれぞれの持つ強みが違います。コープにはコープの強みがあり、道の駅には道の駅の強みがあり、大宜味村には大宜味村の強みがあります。そういう人たちが実際に連携すると、ある程度の結果は残ると思います。こういったことを通して子どもたちは成功体験を味わうし、そこからの学びがあると思います。

 12年ぐらい前からこうした活動を始めたのですが、そのときに商品開発を体験した子が、バイヤーをやりたいということでコープおきなわの職員として入社しています。関わった人間としてはうれしいことです。

 

パネルディスカッション

<パネリスト> 三善 公文氏、大熊 紀子氏、石原 修氏

 

 

 

<モデレーター>松嶋 登
(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

 

松嶋 それでは、これよりパネルディスカッションに入ります。皆さまの質問に登壇者の方がお答えする形で進めていけたらと思います。

神戸が抱える地域課題

質問者A 今日は貴重なお話をありがとうございます。三善先生にお聞きしたいのですが、石原さんのお話に地域課題や地域の御旗の事例がありました。神戸の場合、子どもたちにも分かりやすいし、大人も関わることができる御旗になりそうなものには、どんなものがあるのかをお聞きしたいと思います。

三善 実際に学校運営協議会を60~70校回ると、出てくる課題は、ほぼ一緒です。一つは、不登校の子どもたちが出ないようにするにはどうしたらいいか、出たときにどうするかということと、もう一つは、放課後の子どもたちの居場所です。できれば学習見守りのようなことをしたいというのは、どこの小学校でも一緒です。

 大阪では「いきいき活動」といって、ほぼ誰でも、土曜日も預けることができます。活動場所が学校敷地内にあり、OBの校長先生がいて、そこに子どもたちがいます。しかし、神戸の場合、放課後に子どもを児童館に預けるには一定の条件を満たす必要があります。子どもを安心して見守り、しかもただ子守りをするのではなく、子どもたちの役に立つようなことができないかというのは、神戸市内164の小学校が共通して持つ課題です。

 しかも、東灘区辺りの児童館の定員はすぐにいっぱいになり非常に厳しい。学校の中に整備しても足りません。かといって、都市部には空き地も少ない。どこにスペースを求めるのかという話になっています。

 例えば六甲アイランドの場合、これだけの学校なら、これぐらいの児童館が要るだろうと想定してつくるのですが、想定外のスピードで児童数がどんどん増えています。そこが教育界の喫緊の課題で、住吉小学校などはそこにフォーカスしています。全てを解決するのは難しいので、誰もが困っているところに人材を入れていこうとしています。

松嶋 支援する企業側の認識はあるのでしょうか。子どもの居場所がないという問題意識が意外とないのではないかと思ったのですが。

三善 恐らく子どもを持つ保護者、当事者は困っているので知っています。市議会などでもこの問題は必ず出ます。きちんと動向を見ていれば分かりますが、学校と離れた人にとっては縁遠い世界かもしれません。住吉の生協さんが全面的にバックアップしているのは、そのノウハウがうまくいけば全部の学校につくれるのではないかという仮定の下に行っています。

地域で支える生涯教育の意味

質問者B 私は典型的な後期高齢者です。経営学的にも元気な人が長生きすることは地域の経済に非常に良いわけですから、東灘区や垂水区には役所にホールがあり、成人向けのクラスを開いています。そういうことも地域の経営にプラスになり、意味があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

大熊 そうですね。生涯学習という意味では非常に重要だと思います。市の政策としてどこに予算を充てるか、生涯学習にどれだけ重きを置いているかというのは、市町村ごとに特色が出ると思います。

 鎌倉市も、公民館などでそうした活動をしています。地域のつながり、共生共創のようなものが今の時代、キーワードになっており、ご高齢の方々が培ってこられた知識や経験を地域に還元するような活動も、活発に動いている印象です。

松嶋 私も子どもの居場所づくりを始めていて、ふれまちを公民館などで実施していると、皆さん興味津々でのぞきに来ます。高齢者の方が自分たちの楽しみというだけでなく、子どもと絡むこと、恐らく子どもと一緒にご飯を食べることだけでも楽しみにしていると思います。子どものエネルギーはものすごいものがありますので、嫌がる高齢者の方もいると思いますが、たまに来て一緒に食べることで、高齢者向けの生涯学習だけではなく、子どもたちとの活動に絡めることによって二重三重の相乗効果が出るのではないかと実感しています。

大熊 そのような活動もすごくいいと思います。私は囲碁が趣味ですが、碁会所は昔ながらの地域コミュニティの姿だと思ってすごく好きです。高齢の方から小学生までが同じゲームを同じ場所でやっているのは非常に面白いと思います。

松嶋 ベストプラクティスがありそうですよね。私が面白いと思ったのが、イギリスの政策です。イギリスでは、特に定年退職後に引きこもった男性が社会的孤独になってしまうことが社会問題になっています。イギリス政府は、空き家をDIY施設として開放して、引きこもりの男性がそこに行き、子どもたちと一緒にDIY作業をすることで、社会的孤独の解消と子どもの居場所づくりが一気にできたのです。知恵の使い方でいろいろなことができるのだなと思いました。

大熊 非常に面白い取り組みだと思います。行政がもっとアンテナを張ってバックアップしていけば面白ことができるのではないかと思います。

マネタイズから考える「5次元学校 たすけあい楽校」の実現可能性

松嶋 大熊さんに伺いたいのですが、5次元学校のプラットフォームの考え方で、学校は人もお金も全て足りないというお話がありました。人を募ってプラットフォームができたら素晴らしいと思うのですが、行政に予算付けをしてもらい些少の賃金を払うことは現実的なのだろうかと思うのです。実際動いてみると、リアリティがなかったりします。この点で何か具体的なお考えがあれば教えてください。

大熊 マネタイズの部分については、私たちのチームも悩んだ部分です。正直なところ、教育とビジネスを結び付けることは、そもそもの方向性として難しいところがあって、収入はいったん行政の委託料と企業からの寄付金にしたものの、一部受益者負担があってもいいのではという話もありました。もし実装するとなったときに、最初は子どもや保護者、先生は無料で使えるけれども、一定以上のもの、例えば子育て相談のカウンセリングなどは少しお金をもらうとか、ものによって受益者に一部負担していただくものも必要だと思います。

 ただ、教育格差を埋めるという意味でも「たすけあい楽校」を活用していこうという目標があったので、高所得世帯だけが使える形になってしまうと駄目だと思います。誰でも分け隔てなく使える場にしたいということで、いったん無料にした次第です。

松嶋 なるほど。間接業務のサポートなどをいただけると助かる団体は非常に多いのではないかと思うのですが。

大熊 そうですね。そういったところとつなげられれば非常に大きくなると思います。資金面でも、恐らく活動の幅という意味でも広がると考えます。

松嶋 まだ実装の予定はないのですね。

大熊 そうですね。総務省の方々もいる前で発表しましたが、実際に予算が付いて動き出すという話ではありません。

商品開発におけるネットワーク拡大の秘訣

松嶋 石原さんにもお尋ねしたいのですが、大熊さんのプラットフォームとは対照的に、石原さんの場合は、石原さん自身のネットワークがすごいと思います。あそこまでの企業を配置するのは普通の人にできるものなのか、それとも旗を揚げれば理解していただける方が付いてきてくれるのか、元々持たれているネットワークをさらに広げるための工夫や知恵をお教えいただけるとありがたいと思います。

石原 ほとんどの方は、中学生に授業をするのであれば、善の気持ちで引き受けて一緒になって行動しているような気がします。例えば今回も、ナリス化粧品さんの協力を得るに当たっては、沖縄の企業では解決できない課題をクリアするために神戸まで来るしかなかった。手伝ってくれたのは、同じ生協関係のコープCSネット(生活協同組合連合会コープ中国四国事業連合)でした。そこがモズクを定期的に仕入れて恩納村との関わりを強く持っていたので、専務や理事長に電話を入れたら、二つ返事でナリス化粧品に当たってくれて一緒にやってくれました。

 地域課題をまず考えるので、必要とされる企業はそれぞれ違います。ほとんどの企業が手伝ってくれますから、私の役割はとことん善の循環を回すことと、とことん美談にしていくことです。よくマージンを取れば潤ったんじゃないかと言われますが、そうすると誰も応援してくれなくなるでしょう。だからこそ、とことん真っすぐ進めばいろいろな人が協力してくれるのだと思います。ネットワークというよりも、そういう仕掛けの方が大きいような気がします。

松嶋 他方で、そうした取り組みをきちんとアピールして世に知らしめていく活動は、さすがだと思いました。調べてみると、小さい活動がいろいろな所で行われていることが分かりました。例えば、神戸大学の教員が始めている子どもの居場所や理学部数学科の学生がボランティアでやっている子どもの居場所などがあります。そうした取り組みがもう少し知られるようになると動き方が違うのではないかと思いますし、企業の協力の仕方も変わってくるのではないかと思いました。

なぜ今の学校教育は今一歩踏み出せないのか

松嶋 三善先生にお話を伺いたいのですが、企業側がどう関わるかも模索状態にあるのは確かです。先生の話では、企業側が持っているメニューを、学校の先生方がどう調理できるのかが問題だということでした。学校の先生が今一歩踏み出せないのは、どこに原因があって、どう手を差し伸べればよいのでしょうか。

三善 これは校長先生の性格にもよるのですが、非常に保守的なところがあります。学校は授業をして子どもを安全に帰すという第一義的なものがあるので、まずそこを何とか完璧にしようとします。しかも、日々いろいろなことが起こります。

 ほとんどの大企業が学校に展開できるメニューを持っていて、「どうぞ使ってください」「こういう意義がありますよ」という冊子にもなっています。教育の側がどう動くかに課題が突き付けられているのですが、優先順位があるので、そこまで行き着きません。

 校長先生が「新しいことにチャレンジしましょう」と言ったとしても、その校長先生自身が思い切って踏み出せないところが正直あります。踏み込んだときにトラブルやリスクを背負ったりするので、もう一歩踏み込むというのが難しいのです。

 企業は一定の社会的な役割を果たすために部署を持ち、担当者が配属されています。しかし、学校には専門部署もないので、誰が担当するのかということになります。多忙化が問題視される中、案件が増えることになってしまいます。例えば企業に勤めていて、そうしたコーディネートに長けた人が地域にいれば、その学校はうまくいくかもしれませんが、そこがなかなか難しい。それほど苛烈な多忙化の問題があるということです。ですので、校長先生がよほどの思いを持って、いろいろな所に一人でも行くということにならないと、うまくいかないのが現実だと思います。企業よりは教育の側に課題があるのではないかと思います。

松嶋 他方で、例えば長野県の伊那小学校では60年前から通信簿や時間割がありません。自分たちで小屋を建てたりしています。小屋を建てるためには角度を測らなければならないので、角度の学習が必要になります。そうした体験学習の中できちんと教育が提供されています。60年となると恐らく1人の校長が在任しているわけではないと思います。校長が代わらずに長期政権になっているのか、それとも引き継ぎがうまくいっているのか。できているところとできていないところの差は一体どこにあるのでしょうか。

三善 学校運営協議会の中で「地域住民は土、校長先生は風」とよくいわれます。「土」である地域住民は変わらないけれども、「風」である校長先生によってやり方がかなり変わる場合があって、地域住民が戸惑うときがあります。

 学校運営協議会ではある一定のスパンで、この地域ではこういう点に力を入れるということを確認して、どんな校長が着任しても一定のラインを引き継ぐことが大きな目的の一つになっています。前校長と現校長が正反対の方向性を示した場合、地域住民は困ってしまうので、そういうことも踏まえて学校運営協議会では、みんなが納得した持続可能な教育を続けていくことが一つの大きな目的になっています。伊那の場合はそれがきちんと引き継がれているわけです。

松嶋 校長の問題ではありますが、「風」の人を支える地域の「土」の問題であり、地域の受け入れる力が試されているということですね。

教育現場における中間支援団体の存在意義

質問者C 一般財団法人たらぎまちづくり推進機構(たらぎ財団)ではDeNAさんと組んで、オンラインを使って子どもたちにプログラミングを教える取り組みを3年間行っています。コロナ前から始めたのですが、コロナ禍の間もDeNA本社のインストラクターの方にオンライン対応いただき何とか実施できました。今年はリアルとオンラインのハイブリッドで行っています。

 オンラインを使えばかなり可能性が広がると実感しているところですが、私どものような行政と企業あるいは住民をつなぐ中間支援団体は、いろいろなつながりをつくって行政に紹介していきます。今回DeNAさんを教育委員会につないだのも私どもの財団で、海外も含めて多様な組織とネットワークを持っております。しかし、地方の行政はそうしたネットワークを持っていないので、資源をつないでいく要としての役割が中間支援団体にはあります。今日のテーマであるコミュニティ・スクールも関わってきますが、その点では可能性があるのではないかと思うのですが、このあたりはいかがお考えでしょうか。

大熊 中間支援団体の役割は非常に重要になってくると思います。行政の側からそうしたことを発案してやっていくことは難しいと思います。他方で、外からの提案を行政として簡単に受け入れられるかというと、そこも難しい面があるのが実情です。行政は実績を見ますので、他の自治体で実装できるとそこから広がっていくことが多いですね。提案の仕方として議員などを巻き込んでいく方法もあるかもしれません。行政は通常業務を回すことでいっぱいになっている部分も多々あると思いますので、そうした外部の団体からの働きかけは今後ますます重要になると考えています。

三善 実は、地域にどんな人材がいるのかをつかむことは、学校としても非常に重要です。港島小学校に勤務していたときに、全保護者に何か学校に役立つための特殊な技能をお持ちではないですかという、人材バンク的なお知らせを流したことがあります。今はIT教育やICT教育が推進されていますが、IT機器が導入されても学校の先生がそれをすぐには使えなかったり、トラブルがあったときに動けなかったりします。港島小学校では、保護者の中にIT企業に勤めている方がいて、協力を申し出てくれました。

 地域の中でまちづくり課など行政が絡んで、学校の業務に何か寄与できるようなことを持っていないかアンケートなどで聞けたらいいと思います。六甲アイランドでは、これを自治会が行っています。いわゆる人材バンクみたいなもので、名簿などを持っているところもあります。巷には小学校の教員免許を持っている人も結構いますから、そうした人を巻き込めば、かなりのことができるのではないかという気がします。

松嶋 人材バンク的なデータベースはどなたが作られたのですか。

三善 六甲アイランドの場合は、六甲アイランド自治会という日本で一番大きな自治会があり、二つの小学校でアンケートを取っています。アンケートには例示もあって、ミシンがけのときに手伝ってくれる人とか、コンピュータに強い人、海外に行った経験を多くお持ちの方もいらっしゃるので、英語ができる人などを集めています。

松嶋 そのデータベースを活用していろいろな活動を依頼しているのですね。

三善 幾つかはそうですね。それから、義務教育学校[i] (神戸市立では港島学園・八多学園の2校)が立ち上がって、学校内に地域の人が集まる寄合所のような部屋を設けることになっています。学校から要請があった場合は、そこから派遣することも計画しています。

松嶋 神戸市でもボランティア派遣の紹介サイトのようなものがあって、そういうことに使えるという話は聞いたことがあります。他方で、中間支援団体というのは、もう少し大きな話も含まれていて、企業のアレンジなどをされていると思います。

 中間支援団体の一つに、むすびえ(NPO法人全国こども食堂支援センター)さんという団体があって、ここがすごいと思うのは、本当に名だたる企業を連携相手として束ねて、いろいろなセミナーなども開催している点です。セミナーの中には、どのようにファンディングするかということを、具体的な事例も含めて教えるものもあります。いざ動いてみると中間支援団体の存在のありがたさは、本当に身にしみて分かりますので、存在意義はすごいものがあるのではないかと思います。

大学や大学教員の求められる役割

松嶋 内田先生(神戸大学大学院経営学研究科教授)から「大学や大学教員の役割について、良い取り組みと期待されることを伺いたい。経営学よりも教育学の先生が実際にやっておられることが多いと思いますが、役割の違いなどももしあれば。」というコメントをいただきました。

三善 実は神戸市の場合も、本山中学校には甲南大学、西区では神戸市外国語大学、と大学の先生方がたくさん関わっていらっしゃいます。学校側から期待することは二つあると思います。一つは社会を大きく俯瞰して、今の教育はこれからこうなるというアドバイスが欲しいのです。現場ではどうしても目の前のことに集中して、アリの目のように見ていますが、大学の先生は上からの視座というか、俯瞰されているので、その両方がないと駄目だと思います。大学の先生には、大きな視座から現場へアドバイスをいただければと思います。

 もう一つは、本山中学校もそうですが、大学生に学校現場で学んでほしいのです。私の大学時代もそうでしたが、理論だけ先行すると現場の事情が分からなくて、そのバランスは難しい。これは現場も渇望していることですが、学生には現場を見たら単位を与えるぐらいの方法で、現場の実装に基づいた理論構築の大切さを大学の先生にはぜひ伝えていただきたいと痛切に思います。

松嶋 内田先生から、「まさにそういう授業を今やっております」というコメントをいただきました。

 関連して、大学および大学教員に期待することについてコメントをお願いします。

石原 昨年から「地域と国際開発論」という授業を沖縄キリスト教学院大学で教えています。学生たちと向き合って感じるのは、沖縄の状況にまず関心を持ってもらうところから始めなければならないということです。昨年は沖縄で黒糖が余っていたので、黒糖はなぜ余るのかについて、行政やJAの方に来ていただいて学びました。

 国際開発論ですから児童労働の問題を学ぼうということで、ガーナから持ってきたチョコレートの原料をひいて、学生たちに黒糖とチョコレートでアイスクリームを作ってもらいました。これを伊平屋島に持ち込んで、中学生に授業をしました。まずは関心を持ってもらい、その次にどう行動するのかという課題解決能力やチームのつくり方などを学んでもらいたいと思いました。

 学生と一緒に中学生向けに授業をして、終わってから行政の方々が集まって、みんなで酒を飲みながら議論しました。学生たちは「これが一番いい学びだった」と話していました。皆さんつながりたいと思っているのですが、どうつながっていいか分からないという話もよく聞くので、その枠組みをつくることが大事だと思います。

 もう一つは、伊是名島でモズクが大量に余ったときに、依頼がありました。モズクで商品を作るだけでは続かないと思ったので、島の方々の話を聞きました。ある方から、賢い子はいい高校に行くために、夏休みは本島に夏期講習を受けに行くということでした。それで時間のある学生に声を掛けて、島で夏休みの夏期講習を行いました。3年間続けたら、行政が塾の大切さを認めてくれて、4年目からは行政がお金を出して塾の運営が始まりました。

 学生を島に連れて行ったことにより、何が起こったかというと、直接会って話をすることでスイッチが入る子がいます。沖縄では「15の春」がありますから、島に16~22歳ぐらいの子がいません。だから、お兄ちゃん、お姉ちゃんと触れ合うことによって、スイッチが入る子たちが出てきます。そういうところに大学としての強みがあると思っています。

大熊 私からは元行政職員の視点での話になりますが、官民学連携事業はどんどん活性化されていると思います。大学の役割は教育現場から社会に出るつなぎ目のようなところがあると思うので、学習だけでなく今後社会でどうやって生きていくかを学ぶ場だとも思っています。その中で大学生活をどのように過ごすかは非常に重要で、大学の先生で特に経営学に携わっていらっしゃる方だと官学連携のような機会を積極的に活用していただいたり、学生たちにもボランティア、地域課題や社会課題に対して少なくともアンテナを張って、自分事として考えてもらうことを促したり、考えるきっかけやヒントを与えてもらったりすることが重要だと考えています。

松嶋 私も同じような考えで、学生たちには、もっとフィールドに出なさいという話をします。動きが鈍いなと思いきや、彼らは彼らなりに考えています。私が大学生のときは、アルバイトはより賃金の高いところを選んでいましたが、今の学生はお金ではありません。バイトは何をしているのか聞くと、パティシエという子もいます。パティシエになるわけではなくて、神戸にいるので、神戸でしかできないことをしたいということでした。

 学童保育でのバイトは根強い人気があります。子どもたちと関わることで彼らにとっても発見があるようです。子どもたちにとっては、大学生は大人ではありません。大人と子どもの間のお兄さんやお姉さんです。年齢がちょっとだけ上だから人生相談ができるらしいです。数学科の学生が立ち上げている子どもの居場所では、宿題は見るけれど、子どもたちはそこへ宿題をするために来るのではなくて、人生相談をしに来ているのです。そういう場が実は大事だと学生自身がよく分かってやっているのは何かすごいなと思いました。

質問者C 大学の役割は非常に大きいと思います。中間支援団体が主に目指しているのは関係人口づくりであり、その柱はDeNAさんのような企業と、もう一つは大学です。私は今も半分大学人としての顔もありますが、学生たちには多良木や人吉に来てもらうように勧めて、多くの学生に来ていただいています。

 学生が来ることが地元の小中学生に非常にいい刺激になります。「15の春」のお話がありましたが、多良木でも唯一の県立高校が5年前に閉校となり、高校がありません。中学生が大学生のお兄さん、お姉さんと会う機会があまりないですが、熊本県立大学や熊本大学の学生たちが地域に来て子どもたちと交流するプログラムをやっていると、直接会って刺激を受けて、「勉強したいな」という決意を述べてくれる子どもたちが結構います。主催者としては非常にうれしく思っていますが、学生たちも子どもたちと会って、地域を見て、学内では得られない新たな刺激を受けて、良い学びができたと言ってくれます。

 今年に入って台湾と中国の大学の先生方に来ていただいて交流する機会が何回かありました。そういう形で多良木という田舎にいても、いろいろなところとつながることができます。専門性のある方々とお話しする中で、勉強する必要性や、英語や中国語を学ぶ必要性も、話を聞くだけよりも実際にそうした人たちと会った方がよく分かりますし、大きなインパクトがあると思います。大学の先生方、学生の皆さんには多良木に限らず身近な地域にぜひお入りいただいて、交流と学びの場所にいろいろな形で関わっていただきたいと思います。

松嶋 大変重要なご意見をありがとうございました。

不登校問題のどこに焦点を当てるべきか

質問者D 伊那小学校にもフィールドワークで足を運んだことがあるのですが、非常に面白かったのは、若手教員に対する鵜飼い型の引き継ぎが行われていると思いました。

 一方で全国的に教員は不人気です。私も都内の大学で、非常勤の仕事をしていますが、教職の免許を取ることが、もはや教育に携わるという志の下に進められなくなってしまっている側面があると正直感じます。ある意味それは資格であり、ファンクションであり、ある種の保険のようになってしまっています。それは学生が悪いとか、大学単体の問題ということではないのですが、「教育とは何か」という問いを持つこと自体が許されない状況になっていると改めて感じていました。

 三善先生にお伺いしたいのは、神戸の場合、地域の学校課題の中で、ほぼ間違いなく共通して不登校の問題があるというお話がありました。これは不登校になっている子どもたちが悪いのか、不登校の人数を減らしたいという考えなのか、不登校であるということは状態を指しているので、その状態を改善することに焦点を当てたいのか、ここが大きな違いだと思っています。そのあたりについてもう少し詳しく教えていただきたいと思います。

三善 「不登校」という表現はいかがなものかと、私も思っているのですが、そう言わないと皆さんに伝わらないのが現状です。多様化、個別化する中で、今までのシステムが対応できていないところに大きな課題があると思います。全国で学校に行きづらい子どもたち専門の学校(不登校特例校)をつくる動きは始まっていて、岐阜では既に開校(学校法人西濃学園岐阜市立草潤中学校)しています。

 これからの社会を見据えた上で、それぞれの子どもにマッチした学校をどうつくっていくかができていません。その弊害が数として表れている。その子どもたちにとっては今の学校が行きづらい、息苦しいというところは当然あると思うので、われわれ教育委員会はそこにスポットを当てています。数を減らすことではなくて、そもそも学校という今の仕組みに課題が表れているのではないかと捉えています。

松嶋 恐らく神戸の中・高校などは格差が激しいといわれていて、公立でそこそこいいところでも既に落ちこぼれ感が子どもたちにあるようです。特に有名私立中・高校が多い神戸では、平均よりずっと上の成績でも「もう人生が終わっている」と感じる子どもが少なくないそうなのです。その視点自体がどこかおかしくて、多様性というのはいろいろな生き方をきちんと受容していくことだと思います。

三善 日本の学生の一番のアキレス腱は自己有用感を持てないことです。他人と比較することばかりに目を奪われて、せっかくこの世に生を受けたのに、その生を全うしないままです。欧米の人たちは根拠なき自信があって、そこまで自信を持てるのかという人もいますが、そういう人の方がうまくいってます。それなら根拠なき自信でがんがん行ってもいいのではないかと思います。

 夏休み明けの9月1日に自殺する子どもたちがたくさんいるそうです。大学でも4、5月に希望していた大学に入れなくて、そのレッテルを背負うのが嫌で自殺する学生が増えています。日本の教育の一番大きなネックは、自己肯定感が持てないこと、ここ1点です。OECDの中でもずっと低いです。学校の同学年では、なかなか輝けない子どもも、地域に出たら「地域のお兄ちゃん」という機会を与えることが大切だと思います。そういう意味でも地域での活動は大きな意義があると思います。

商品開発によって生徒はどのように変わったか

質問者D 今の話にも関連すると思うのですが、子どもが地域に出ていくことに対して、私たちはどういうまなざしを向けたらいいのかは大きな課題だと思っています。いわゆる近代教育の流れの中では、子どもは未熟なもので、先導者たちが手を差し伸べて育てていくものだという考えがあったと思います。最近はコミュニティ・スクールという概念が出てきて、さまざまなところでいろいろな実践が行われています。

 私が非常に印象に残っているのは、社会の仕組みの中心にいて、仕組みを動かしていくのは大人かもしれないけれども、「社会に命を吹き込むのは子どもたちだ」といっている地域の人たちがいることです。子どもを巻き込む、子どもを中心にすることで、風が吹くとよく聞きます。恩納村の話は、非常に面白くてわくわくするし、やはりそうなのだなと思いました。一緒に風をあおってくれる大人たちがいたということだと思いますが、実際に取り組みに参加した生徒たちの地元を見る目、沖縄を見る目が何か具体的に変わったということが実感としてあれば、ぜひお話を伺いたいです。

石原 伊平屋村で黒糖を何とかしたいという相談が私のところに来ました。みんなで力を合わせて商品を作り、その売上の一部で東大生を呼んで、10年ぐらい前に「伊平屋東大塾」を開きました。このときに参加した子たちがどう変化したかを教育委員会が10年後に調査しました。まず一つは、伊平屋の子は自分から前に出る子が少なかったのですが、東大塾に参加した子たちは「私は伊平屋出身です」と前面に出せるようになりました。それから、交流によって明らかに学力が上がりました。この二つの効果が出たという報告が教育委員会からありました。

商品開発によって生徒の地域に対する関心はどのように変わったか

質問者D 実際に中学生がこのプロジェクトに関わる中で、中学生の地域に対する変化は何かありましたか。

石原 素材は必ず地域の商品を使いますので、そこに対して関心を持ったり、例えば漁業に関心を持ったりという子は確実に出てきます。

質問者D それは地域にとってとても大事なことだと思います。

石原 この地域で育ったことの誇りを醸成することが狙いですから。なぜ辞める子が多いのだろう、なぜ途中で挫折するのだろうと考えたときに、その地域で育ったことの誇りをまずつくってあげたいと思って、事業を組み立てています。

教育現場における「自分で考える」ことの意義

質問者E 石原さんに質問したいのですが、もしご自身が校長先生だったら、商品開発という手段を使わずに何をなさるでしょうか。

石原 私が影響を受けたのがベルリン大学、東大大学院を出て、現在、琉球大学准教授のドイツ人のティトゥス先生です。彼が沖縄の商店街の活性化委員会の委員長を、私が副委員長を務めたことがあります。彼は「なぜ日本の教育は考えることをさせないのか。高校まで記憶に頼った勉強になっていて、考えることは大学になってからやっているような気がする。ドイツでは小学校ぐらいから、私はこう思います、こう考えますという教育をしている」と話していました。なぜドイツではそうしているかというと、ヒトラーを出している過去の歴史から、そういうことを二度と起こさないように、「私はこう思います、こう考えています」という教育をしっかりやるのだそうです。

 ラオスを訪れ、社会主義国の様子を見てきましたが、本当に考えることを奪っています。自分で考えて決めることの大切さは伝えていきたいですね。

試行錯誤される教室内の「場」づくり

質問者E どうもありがとうございました。大変面白かったです。三善先生にお伺いします。会社で仕事をしていると、社内だけでなく社外とコラボするのが当たり前なのですが、われわれは小学生から大学生になるまで基本的にずっと、黒板と先生の顔と友だちの後頭部を見ながら勉強してきました。そこにある種の構造的な問題があると思っていて、机をサークルにすれば友だちの顔が見えます。試験でも、隣の人に声を掛けて「僕が1~5までやるから、君は6~10までやってよ」と言ったら退場させられます。ところが社会に出ると、「なぜ1人でやっているのか、みんなとやれよ」と、チームワークを求められます。コンテンツも大事だと思いますが、座り方などの構造的な問題ですぐにできることなど、何か考えていらっしゃることがあれば、ぜひお教えください。

三善 私は神戸大学に初めて来ましたが、校舎のたたずまいにしても、学ぶには最高の場所だと思います。「場」というのは非常に大きな意味があります。実は小学校の黒板を見ながら座る形は、明治時代から効率的という理由でやっています。

 今、小学校では、座り方一つにしても、4人程度で話し合うのが理想的だということで4人グループが前方に向く形にするなど、現場ではどうしたら子どもたちが額を合わせて話せるかという座席の工夫を結構いろいろやっています。私も授業見学に行きますが、クラスの机の並べ方を見ればその先生の力量が大体分かります。そこに全て表れるといったら変ですが、小学校の現場では座席の作り方はものすごく大きなテーマになっています。基本は4人で話ができるようにしよう、というのが今のスタンダードになっています。

松嶋 ご登壇者の皆さま、貴重なお話をいろいろご紹介いただきありがとうございました。参加者の皆さまも、ありがとうございました。


 [i] 義務教育学校:一人の校長の下、一つの教職員組織が置かれ、義務教育(小学校・中学校)9年間の学校教育目標を設定し、系統性を確保した教育課程を編成・実施する学校。 学校の目的は、心身の発達に応じて、普通教育を基礎的なものから一貫して施すこととされている

 

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