プロフェッショナルの仕事術
企画の仕事はMBAで溢れている

<略歴>
1995年 大阪大学大学院工学研究科 修了
1995年 松下電器産業株式会社 入社
(現 パナソニックホールディングス株式会社)
2018年 本社R&D技術企画部 異動
2021年 神戸大学大学院経営学研究科MBA 修了
◆ある技術企画部社員の仕事
あ、今年もMBAが始まったな。4月になると、MBAで学んだ長いようで短いブートキャンプ(古いな)を思い出します。このMBAで学んだ授業の内容は、結構今の仕事にも活かされているなと、つくづく感じています。
私は某家電メーカの本社研究所部門において、企画の仕事をしています。現在、私が主に携わっている仕事は、以下のようなものがあります。
①推進中の研究開発テーマのビジネスモデル構築と事業化に向けた推進
②新テーマ・新規事業創出活動
③働き方・働きがい改革に関わる仕掛け作り
◆少し詳細に説明すると
先ず何としてもやり遂げたい仕事が、①の研究開発テーマ[1]のビジネスモデル構築とその事業化推進です。これは、現場の開発メンバが取り組んでいる技術テーマを、一緒になって事業化の観点から検討し、どのような商品、システム、サービス[2]として技術をお客様にお届けしたら喜んでもらえるか、また、お役立ちできるようになるかを考えて[3]、推進していくものです。事業部と連携し、競合他社はどこになるのか[4]、ハードウェアの場合はどこで量産し、どのような商流を使ってお届けするか[5]、市場規模や事業規模はどうなるか[6][7]などを考えます。そういえば、「ビジネスモデル構築」と書くだけでも、MBAで学んだ内容が活かされているというのが予想[8]できそうですね (笑) 。
また、②の新テーマ・新規事業創出の活動[9]では、更に(1)メガトレンド分析、(2)注目すべき領域の選定と深堀によるテーマ案創出、(3)クライテリアの構築の三つの取り組みを並行して行っています。今までも当然、部門として技術管理は行っていますが、改めて現状の研究開発の状況を振り返ることで、効果的に研究開発活動ができるように取り組んでいます。例えば、各現場での開発者が主観的に考えたテーマ選定だけではなく、客観的にトレンドを眺めてテーマ選定も行うことを考慮し、(1)メガトレンド分析を行っています。次にそのトレンドから、(2)適社性[10]や将来性、技術優位性[11]、市場規模などで順位付けし、いくつかの深堀すべき領域を抽出し[12]、技術テーマのアイデア検討までを行っています。一方、改めて(3)技術評価のためのクライテリア[13]を見直し、仕組みとして再構築することを行っています。ポートフォリオマネジメントやフェーズチェンジマネジメントのマネジメント手法で[14]使用するクライテリアは、常に見直しを行い、現場にてローリングを行うことで、研究開発テーマの質を向上させ、上位平準化を図る取り組みにつなげています。
人事系の仕事[15]としては、③働き方・働きがいをいかに向上していくのか[16]ということを、専任組織と連携し、自部門に取り込んで活かしていく[17]ための橋渡しとして活動しています。仕事のアウトプットの質を変えるためには、やり方を変える必要もあります。例えば、成功や失敗を経験しているプロジェクトのメンバにインタビューを行い、プロジェクトのジャーニーマップを作成する活動を行っています。研究活動をしていると、同じような課題に遭遇したり、同じような悩みを持ったりすることがあります。インタビュー結果から示唆を得ることで、現在活動中のプロジェクトを効率的に進めたい現場担当者の指針として活かしてもらうことを目的としています。また、良い方向に働き方を変えるために、ワークスペース自体を働きやすい環境に変えていく活動も行っています。今年になってワークスペースの参考にするために、新しい研究施設を竣工したK社の研究センターを訪問し、勉強させていただきました。実は、このK社への訪問は、MBAで知り合った同窓生にアレンジしていただきました[18]。
◆これからもMBAとともに
これらの仕事は、MBAに入る前から継続して行っているものもありますが、MBA修了後に任された仕事も多く、この社内コンサルのようなお仕事[19]をなんとかこなせているのはMBAで鍛えられたからかもしれないと思う今日この頃です(違うかもしれませんが…)。同窓生とは今も交流を続けており[20]、いつも刺激をいただいています。

コロナ禍の合間を縫ったテーマプロジェクト研究の企業訪問

原田勉先生・ゼミ生のみなさんとの修了式
[1] 統計解析応用研究:直接の業務には使用していませんが、実際の研究開発活動の中では活用されており、企画部門であっても一定の知識は必要となります。
[2] サービス・イノベーション応用研究:弊社はモノ売りを主軸にした会社ですが、世の中の流れはサービス提供まで含めたビジネスモデルを現場担当者と検討していく必要があります。
[3] Sales and Marketing:お客様の声を聴きながら技術マーケティングを行うのは大切なのです。
[4] ビジネスエコノミクス:ゲーム理論や価格戦略の考え方も絡めて考える必要があります。
[5] Technology and Operation Management:協力事業場との関係構築や、顧客満足度を高める実装方法など、開発テーマに応じて検討し、実現する必要があります。
[6] 需要予測と意思決定:どのような事業モデルにしたらお客様満足につながるかは最低限考える必要があります。
[7] Controlling and Reporting:本社研究所部門は、製品開発の部隊ではないため、原価計算は本来得意ではありません。しかし、ポイントを押さえた見積りをしておく必要があります。
[8] そろそろお気づきかと思いますが、脚注の内容は神戸大学MBAで学べる授業科目になります。
[9] プロジェクト・マネジメント:本活動はプロジェクトとして行うため、どのようなメンバで構成し、どのような日程で進めるかなど、基本的なプロジェクト管理能力が必要となります。
[10] 経営倫理:当社もサステナビリティ経営を目指しています。目指す先に、創発的責任経営となる無限責任を果たしながら価値を創造する経営モデルがあると考えています。
[11] 経営史:授業の中では、GEと東芝の事例を用いて特許管理の側面に焦点を当てながら、どのように企業が経営を進化させてきたのか、について講義をいただきました。
[12] マーケティング・リサーチ:深堀するテーマが事業として成立するかどうかは、市場の声を聴く市場調査が必要です(せっかく覚えたR [ 統計解析に特化したオープンソースのプログラミング言語 ] を使ったデータ分析までは現状活用していないのが残念です)。
[13] ファイナンス応用研究:クライテリアの一つとして、NPVなどを用いた評価も当然ながら議論されます。
[14] Strategy:技術開発時点から、戦略、競争優位、比較優位を考えてテーマ管理を行う必要があります。
[15] コーチング:個人やチームのパフォーマンス向上や、自己成長の促進、コミュニケーション能力の向上、およびリーダーシップの育成に、コーチングは非常に役立ちます。
[16] Individuals and Groups:報酬制度や人事評価はシステムとして重要ですが、それ以外で従業員のモチベーションや業務効率を上げるためにはどうしたらよいかを、考えています。
[17] 組織と人的資源管理:「組織において個人がよりよく生きていくための課題は何か」を検討しつつ、それを解決する仕組みを見出すことに、頭を悩ませています。
[18] ケースプロジェクト研究:研究活動そのものが活きているわけではありませんが、ケースプロジェクト研究の授業があったからこそ、ここに記載の企業訪問が実現しています。
[19] グローバル戦略、事業創発マネジメント、M&A戦略:コンサルの大手であるBCG様や野村総研様、M&A最大手のGCA様にも講義をいただきました。
[20] テーマプロジェクト研究:一緒に苦楽を共にした仲間として、特に仲良くしていただいています。
