第15回 加護野忠男論文賞
入賞論文

金 賞

開発体制の変化が製品開発エンジニアのモチベーションと仮説創成力に与える影響
~自動車開発の事例に基づいて~
澤田 健氏

銀 賞

Society 5.0時代におけるバリューベースヘルスケアを実現するための医療サービスイノベーションに関する研究
~日本の医療サービスにおける価値共創を目指して~
広瀬 博史氏

銅 賞

地方公共団体における人事評価制度の普及に関する研究:実質的な利用と見せかけの利用

田中 政旭氏

 

加護野忠男論文賞 講評

 先日ある会社の社長から、「社員が関西のある大学のMBAで修士論文を書いたので、それを読んでコメントとアドバイスを聞かせてほしい」と、お願いされました。それと比べると、神戸大学MBA修士論文のレベルは非常に高いと思います。レベルが高いというのはそれだけハードだということです。頑張りというのは、皆さんの将来のキャリアに活きてくると思います。

 では、それぞれの論文についてコメントいたします。まず、審査員全員の意見が一致して金賞に決まったのが、澤田さんの論文です。本論文は、自動車産業における製品開発の組織体制が変わったことによって、その会社の中で開発エンジニアのモチベーションや創造性にどのような影響が出てきたかを追求した研究です。とりわけ、この論文で重視されているのは、最近の自動車開発の対象の広がりです。自動車だけではなく、ネットでの外部サービスとの結びつき、自動運転などの自動化、シェアードサービス、エレクトロニクス部品など、自動車産業の外延がものすごく広くなってきているということです。その中での「開発」が、今後どのように展開するかも含め、分析が行われています。非常に面白く、私もいい勉強になりました。しかし、修士論文というのは、われわれが勉強するためではなく、ご本人がそれをまとめるために調査をして、考えて書かれることに意味があるわけで、その意味でも分析は非常に良かったですね。

 銀賞は広瀬さんの論文です。日本の医療サービスはコストも質も非常に高い。しかし、そんな日本の医療でも十分でないのが、予防医療です。予防医療に関しては、まだまだ改善の余地がある。私はこの論文で初めて知ったのですが、生活習慣病を持つ人のための社会システムをどうするかという点で、尼崎市が極めてユニークなシステムを作られている。広瀬さんの研究が面白いのは、生活習慣病が深刻になる前の予防医療について、具体的に尼崎市の実例を分析している点です。私は、研究会でアメリカに行った際に脳出血を起こして倒れました。神戸にも尼崎のような取り組みがあったら、私は倒れずに済んだのではと感じたほどです。

 一方で、尼崎市にも問題はあります。市は予防医療に関するサービスを提供しますが、それを収益化するシステムを持っていないため、結局、コストだけがかかっています。尼崎市がどうすれば、この生活習慣病予防システムを収益化できるかについて、もう一歩考えていただけたら、広瀬さんの論文はすごく良くなったのではないかと思います。

 銅賞の田中さんは、地方公共団体における人事評価制度の研究でした。こちらは「地方公共団体における行政法的な経営管理の問題」というふうにもう少し視点を広げたら、もっと面白い研究になったのではないかと思います。

 各論文の差は紙一重です。やはり、それだけ神戸大学MBAの修士論文は、質の高いものだということです。おそらく、ここまで来るには、ずいぶん大変だったと思います。私もこれまで何度も修士論文の審査をしてきましたが、指導教員やアドバイザーはかなり厳しい言葉を投げかけます。そんな中でも負けじと頑張るのが、神戸大学MBAの良さです。MBAの門をたたいた多くの人が、覚悟して修士論文を書き上げます。その中で、より優れた研究として選ばれる人がいるということも頭に入れて、頑張っていただければと思います。

 審査員の石井淳藏先生(株式会社碩学舎 代表取締役)のご判断では、今回の三つの修士論文はどれも本にできるということです。書籍にするには、追加的な作業が必要になってくるかと思いますが、ぜひ出版にもチャレンジしていただき、「やっぱり神戸大学MBAはすごいな」という評価を高めていっていただきたい。

 受賞された皆さん、おめでとうございます。

加護野忠男