プロフェッショナルの仕事術
自らの言葉で語る、経営としてのサステナビリティ・ブランディング
<略歴>
1996年 大阪大学法学部法学科卒業
1996年 株式会社クボタ 入社
2020年 神戸大学MBA修了
◆神戸大学MBA入学のきっかけ
私は2014年から株式会社クボタにおいて、グローバルのブランドマネジメントとブランディングを担当しています。大学卒業後、1996年にクボタに入社。水環境事業で営業・財務管理経験後、人事部で採用・ダイバーシティの責任者を務め、2014年から現職に就き、キャリアとしては「事業×人事×ブランド」の軸を構築してきました。クボタは人材教育については昔から定評があり、私もその恩恵として選抜リーダー研修や、企業内ミニMBAなどを受講し、会社の中ではそれなりに学び、経験してきていると思っていました。一方で、経営戦略としてブランドコミュニケーションを立案・実行していく過程において、「経営陣と同じ視点に立てない」「同じ思考や方向性のアプローチにとどまっている」「現状から1歩も2歩もブレイクスルーする必要がある」と感じる日々が続きました。そんな時にふと目に留まったのが、神戸大学のMBA募集。海外出張も多く、業務が多忙な中で、時間を捻出できるのか、いくばくかの不安はありましたが、今の状況を打破するには、飛び込むしかない!との思いで、出願しました。
実際、神戸大学MBAは、本当に刺激的でチャレンジングな日々でした。「知の巨人」達からシャワーのようにあびる「本質的な問いかけ」、様々な制約がある中でも常に前進し続ける個性的で多様な同級生。ゼミでは黄磷先生のもと「深い思考」を徹底的に追及することや、リサーチデザインを何度も何度も繰り返すことで、問題の本質に迫ることの重要性を学びました。「神は細部に宿る」。論文だけに限らず、仕事においてもまさに同様のことが言えます。
人の心を震わすことのできるクリエイティブや仕事は、「本質」的な「細部」にこだわることにより、生まれると思います。それを教えてくれたのは、論文執筆そのものであり、神戸大学MBAでの経験に他なりません。
◆学びの実践
2020年MBA修了後の2021年1月、大きな組織変更がありました。これまでブランドコミュニケーションは、コーポレート・コミュニケーション部のブランド推進室という位置づけでしたが、社長直轄のKESG推進部に組織ごと移管されたのです。
その背景にあるのが、2021年に発表した長期ビジョン・中期経営計画の基軸として掲げられた、クボタらしいESG経営の推進。ESG経営において、ステークホルダーとの対話が何よりも重要であると考えた結果による組織変更でした。企業理念はもとより、長期ビジョン・中期経営計画の社内への浸透、広告・広報PR、オウンドメディアなどあらゆるメディアを通じたステークホルダーへの発信と対話、それらを支えるブランドマネジメント等を、グループの中核組織として実行していくことになりました。また、見直しが迫られていた統合報告書の再編もタスクに加わりました。
論文で取り上げたテーマ「サステナビリティ経営を基軸とした企業ブランディング」をクボタの中でまさに実行していく立場になったことは、ある意味プランド・ハップンスタンス(計画された偶発性理論)といえるのかもしれません。それからの1年間は本当に忙しく、目まぐるしい日々でありましたが、ビジョンや目標に向かい、部下や関係者と協力・連携しながら取り組みました。特に、統合報告書の再編プロジェクトは、MBAの学びが活きたと思います。自社が社会に提供する本質的価値は何であるのか。それを実現するための経営資源の活用、アプローチを、将来にわたって説明していく。日本企業が最も不得手とする領域であり、どうしても社会からの要請に応えるだけの義務的な対応にとどまるところを、いかに超えていくか。自分自身としては、まだまだ納得いく出来栄えとはいえませんが、社会へのコミュニケーションのありようを変えるという意味では、一定の成果があったと考えます。

カタールでのCM撮影の様子

カタールでCM出演者と
◆これからのチャレンジ
ビジネス・インサイトが発刊される2023年1月は、ブランドに携わり10年目の年になります。歴史があり、やや古めかしいイメージであったクボタは、この10年で一定の認知を獲得し、グローバルに挑戦するアクティブなイメージに変わってきたといえます。でもそれは表面上の印象を変えたのではなく、本来変わらずに持っていたクボタの強みであり、この数年さらに磨きがかかったものを表現したにしか過ぎません。
企業のブランディングとは、その企業がもつ理念・姿勢を、未来に向けたビジョンと合わせて、ステークホルダーと共有することです。まさにそれは経営戦略をステークホルダーと共有し、実践していくことと同一といえます。このタスクは、私一人では到底できることではなく、部下・同僚に加え、様々な国・地域で働くクボタのメンバーや、いつも支えてくれるビジネスパートナーあってなしうること。自らがリーダーとしてどう振る舞い、どう行動していくか。常に問い続けながら行動していきたいと思います。
そして私個人としては、企業人として自らの経験・思いを行動・実践していくことはもちろん、廣瀬文栄として社会にどう貢献できるかも問われていると感じます。企業におけるブランドの重要性を言葉や形にしていくこと。女性として働いてきた経験・学びを、次世代の若手にも共有し、応援していくこと。まだまだやるべきことはたくさんあります。
神戸大学MBAでの学びは、私をよりたくましく、より柔軟にしてくれました。これからもこの宝物を大切にし、前進していきたいと思います。

黄ゼミメンバー修了式の様子
