特集
ミレニアル世代が描くライフ・ワーク・デザインとは
不安定な時代を生きるミレニアル世代
2020年に突如として始まった新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックは、未だ一向に収まる気配を見せていない。2021年には、いくつかの先進的な国々でワクチン接種が本格化し、国民の大半が接種を終えた国も出始めているが、接種後の再感染も報告されるなど、人類がいかに新型コロナウイルスとの共存を図っていくのか、その正しいロードマップは未だ提示されていない。この間、多くの専門家がそれぞれの立場で意見を出し、来るべき世界について唱えているが、皆が安心して暮らせるような出口の世界像を未だ共有することができていないのが現状である。確固たる情報を持たない人々は、日々、テレビ、インターネット、SNSから流される情報を目の前にして浮足立ち、ただ不安定な時代へ突入してしまったと実感し始めている。もちろん世界が不安定化することは今回が初めてではなく、歴史を振り返れば、比較的安定していた時代と不安定な時代が交互に繰り返されてきたことが思い出される。最近取り上げられることの多いペストやスペイン風邪のようなパンデミックだけでなく、20世紀に限定して見ても、世界的な戦争が幾度となく繰り返されてきた。比較的安定した時代を生きてきた現在の私たちには想像することすら難しいが、明日を生き抜くための方策を日々考え続けなければならないような過酷な生活を送っていた人々が、それぞれの時代に確実に存在してきた。
今回取り上げるテーマは、日本という比較的豊かな国に生まれ育った人々が、徐々に不安定化しつつある社会情勢の中、いかに自らの生き方を思い描こうとしているのか、である。とりわけ、40歳未満の若い世代の人々が、自らの将来を見据え、日々どのような問題を抱えながら生活を送っているのか。キャリアを含む生き方についてのデザインが、今回のテーマである。世代の呼称は、これまでさまざまなものが考えられてきたが、40歳未満に焦点を当てるものとしては、日本では「ゆとり世代」という呼称が有名である。しかし、このようなラベリングには否定的な意味合いも含まれているように思われ、ここではアメリカの呼称に倣い「ミレニアル世代」を利用することにしたい(表1)

よく知られているように、日本で「団塊の世代」と呼ばれてきた人々に対応する世代として、アメリカでは「ベビーブーマー」という呼称が付けられており、そこには1946~64年頃に生まれた、現在60代から70代前半の人々が含まれている。その後、その世代の子どもに当たる世代からはX、Y、Zという順に世代呼称が与えられており、とりわけY世代に当たる人々を「ミレニアル世代」と呼称することが一般的な習慣となっている。具体的には、1981~96年頃に生まれ、2000年以降に成人を迎えた人々のことを指し、現在、25~40歳辺りの年齢層に当たる人々である。彼/彼女らが成長期を通過した時代背景としては、9.11同時多発テロやイラク戦争が起こり、また経済における大きな出来事としては、エンロンやワールドコムの倒産があった。さらに、学校生活を送る時点でスマホが普及し、友達や世間とのコミュニケーション手段として、広くSNSが普及し始めた世代でもあった。ひと言ネット空間で呟けば、瞬時に誰もがその内容を見知ることができ、自己をアピールすることは各段に容易になったが、その反面として、世間からの批判も過度に拡声されて降りかかってくることになる。言ってみれば、常にオンライン上での自己表現に注意しながら、日常生活を送ることが求められるようになった世代であると言える(表2)。

さて、キャリアを含む生き方についてのデザインと言えば、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が思い出される。昨今のコロナ禍では、その重要性がますます認識されるようになりつつあるが、2007 年に策定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、誰もがやりがいや充実感を感じながら仕事をする一方で、子育てや介護、また家庭、地域、自己啓発等に係る個人の時間を確保できるような、健康で豊かな生活を送ることの重要性がうたわれていた。しかしながら、未だこのような理想的な社会が実現されているとは言いがたく、むしろ仕事と生活を両立することの難しさに直面している人々の方が多いのではないだろうか。では、特にこれからの社会において中心的な役割を担っていくことになるミレニアル世代の人々は、いったいどのようにキャリアプランひいてはライフデザインを描こうとしているのであろうか。ここでは、仕事と生活を分離してその両立を図るというよりも、生活の中の一要素として仕事を捉えながら、ミレニアル世代の人々が、日々どのような問題と格闘しているのかについて考えてみたい。
ワーク・ライフ・バランスを通じて実現される社会とは
2007 年に策定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、人々がその働き方を経済構造の変化に適応できず、仕事と生活を両立しにくい現実に直面している点が指摘されていた。これらの両立を促そうとする背景には、特に若者が、経済的に自立し、性や年齢にとらわれず労働市場に参加していくことが、日本経済の成⾧力を高め、ひいては少子化の解消や持続可能な社会の実現につながるのではないかという思惑があった。そこでは、仕事と生活が調和する社会とは、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」(内閣府、2007、p. 3)と定義されている[1]。その上で、具体的には以下のような社会を目指すべきであるとうたわれている。(1)就労による経済的自立が可能な社会、(2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会、そして(3)多様な働き方・生き方が選択できる社会、である。とりわけ焦点は若者に置かれていたようであり、彼/彼女らが、いきいきと働くことができ、かつ結婚や子育てについて希望を持てるような、生活の経済的基盤を確保できるような社会こそが、目指すべき社会であるとされていた。そしてそのためには、子育てや親の介護が必要な時期に、それぞれが置かれた状況に応じて、多様で柔軟な働き方を実現できるような選択肢を提供することが、喫緊の課題として提示されていた。果たして、これらの社会は実現可能なのであろうか。
そのような選択肢を広げるための具体的な方策として、従来から叫ばれてきた働き方改革が、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、一気に普及した感がある。例えば、時間や場所にとらわれずに働く、リモートワークやテレワーク。また、海や山など自然環境が豊かな場所へ出かけてその合間に仕事をする、いわゆるワーケーション。また複数の仕事を複数の会社と契約し、個人個人の都合に応じてさまざまな業務を受け持つパラレルワーク(複業)。さらには、勤務地にとらわれない生活の最たる例としての多拠点生活や地方移住。このような実践は、以前から先進的な働き方として紹介されてきたが、一般的な働き方として広く受け入れられてきたわけではない。しかしながら、昨今の感染拡大を背景に、多くの会社がこれらを推奨せざるを得なくなり、結果として働く側の選択肢が増えることになった。こうした変化が、アフターコロナの世界においても継続されるのかどうかは、各会社における経営者・管理者の差配次第であると言えるが、少なくとも、今回のパンデミックをきっかけに、技術的には運用可能であることが一部実証されたと言えるだろう。また成長期をスマホとともに過ごしてきたミレニアル世代の働き手にとっては、いつでもどこでもオンラインに接続された生活は、もはや当然の光景であり、そこへ仕事が入り込んでくることは、むしろ必然であると思われるかもしれない。反対に、なぜこれまで、それほどまでに対面での会議に重点が置かれてきたのか、従来の働き方そのものに疑問さえ持ち始めていると言えるだろう。
このように、従来会社の都合によって支配されていた働き方が、個人の選択によって自由に組み換え可能なモジュールへと転換されることによって、個人個人がそれぞれの価値観に応じて生き方そのものを計画することが重要になってくる。いわば、ワークをその一部として組み込んだライフそのもののデザインである。人は、仕事や家族や趣味など、人生を構成するさまざまなモジュールを目の前にしたとき、どのようなライフデザインを描こうとするのか。おそらく、ミレニアル世代と称される人々が、このような選択について真剣に考えることが迫られる最初の世代になると考えられる。かつて、仕事を中心に据えながらその余白にいかにプライベートな事柄を組み込んでいくのかを考えてきた世代があったとすれば、これからの世代は、多様な選択肢がフラットに提示されている中でどのようなライフデザインを思い描くのかを迫られることになる。全てが自由であるが、全てが自己責任であるとも言える。果たして、ミレニアル世代が描くライフ(ワークを含む)のデザインは、どのような姿をしているのであろうか。
SDGsを巡る問い
さて、ミレニアル世代のライフデザインを考える上で避けて通ることのできない問題が、気候変動を含む地球環境問題である。2015年12月にパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP21)において、2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際的な枠組み、いわゆる「パリ協定」が採択された。とりわけ日本は、2030年度時点で、2013年度比26%減の水準を達成することを中期目標として掲げており、また、主要排出国が排出削減に取り組むことを促すために、2050年までには80%の温室効果ガスの排出削減を目指すという、かなり思い切った長期目標をも掲げている[2]。このような削減目標を達成するために、現実的に中心的な役割を果たすことを期待されているのが、ミレニアル世代の人々であることは言うまでもない。彼/彼女らが描くライフデザインのスパンが、ちょうどこれらの目標達成に係る時期と重なっているからである。また実際に、ミレニアル世代あるいはその次のZ世代に属す人々は、環境問題や社会問題に対する意識が高いとも言われており、それはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏の言動や、近年世界各国に広がったBLM運動[3]などを通じても想起されるところであろう。事実、日本においても日々SDGsに関する報道がなされており、かつてないほど環境問題や社会問題に取り組もうとする機運が高まっているようにも見える。
SDGsとは、(あえてここで説明をするまでもないほどすでに広く知れわたっているが)Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称であり、2015年9月に国連サミットで採択された国際的な諸目標の枠組みである。そこでは、2030年に達成することを目指すとされている17のゴール及び169のターゲットが設定されている。その具体的な内容は、貧困や格差やジェンダーといった社会問題から、人々の教育、健康、働きがい、暮らし方など多様なテーマに及ぶが、とりわけ多くの目標が設定されているのが、地球環境問題に関わるテーマである。例えば、以下のようなゴールが設定されている[4]。

興味深いことに、このようなSDGsについての認知度が高いのは、比較的若い世代の人々であることが多くの調査によって示されている。例えば、朝日新聞社が2017年からデータを取り始めた「SDGs認知度調査」では、最新の調査結果として、30歳未満の世代の認知度が最も高く(52.1%)、次いで30代(48.1%)、50代(44.8%)、40代(43.9%)の順に並んでおり、若い世代を中心にSDGsに対する認知度が高まっていることが報告されている[5]。また、企業広報戦略研究所が2020年に実施していたSDGsに関する意識調査においても、男性では20代の認知度が最も高く(61.7%)、次いで50代(48.2%)、30代(48.0%)という結果に、また女性でも20代の認知度が最も高く(41.3%)、次いで40代(21.2%)、30代(21.0%)という結果になっており、20代を中心とする比較的若い世代でSDGsの認知度が高いことが報告されている[6]。さらに、広島大学FE・SDGsネットワーク拠点も、「若者世代が本当に SDGs世代であると言えるのか」を検証するためにインターネット調査を実施しており、若者世代(18-30 歳)が上の世代よりもSDGs に積極的に取り組む可能性が高いという調査結果を、2021年2月に報告している[7]。
このような報告に基づけば、上記の中期目標や長期目標の達成を目指す上で、明るい未来を予想できると思われるかもしれないが、実際には、かなり冷めた目で昨今のSDGsブームを見ている若者がいることもまた事実である。例えば、若者の消費行動を分析している牧島夢加氏は、必要最低限のものだけで生きることこそが持続可能な社会の実現につながると理解している若者が、SDGsの名の下にブランド化された商品に安易に手を伸ばすことはないという事例や、大企業が取り組んでいるSDGs活動が、どこかイメージ先行の一時的なマーケティング施策にしか映らないと訴える若者の声を取り上げながら、この世代が「サステナブル疲れ」を引き起こしているのではないかと指摘している[8]。また、最近よく読まれているミレニアル世代の経済思想家斎藤幸平氏も、『人新世の「資本論」』という著書の中で、「政府や企業がSDGsの行動指針をいくつかなぞったところで、気候変動は止められないのだ。SDGsはアリバイ作りのようなものであり、目下の危機から目を背けさせる効果しかない」(p. 4)と述べながら、「SDGsは『大衆のアヘン』である!」と喝破している[9]。彼によれば、現在の地球環境問題はすでに危機的な状況を迎えており、より良い未来を選択するためには、私たち一人ひとりが当事者として立ち上がり、この危機の原因を突き止めてその解消を図らなければならない。このような危機が現実のものとなるのかどうか、その答えは誰にもわからないが、少なくとも、それが現実のものとなったときに大きな危害を受けることになるのが若い世代の人々(また、これから産まれて来る人々)であることだけは事実である。
果たして、このように不安定化した時代の下、ミレニアル世代の人々は、いかに自らのライフ・ワーク・デザインを描こうとしているのか。これは、ミレニアル世代に属す人々にとっても、また人類全体にとっても、真剣に考えられなければならない問題である。
[1] 内閣府[男女共同参画局・仕事と生活の調和推進室](2007)『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章』[http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/pdf/charter.pdf](2021年9月15日アクセス)
[2] 環境省(2016)「地球温暖化対策計画の概要」[https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/tikyuondankataisakukeikaku_gaiyou.pdf](2021年9月15日アクセス)
[3] Black Lives Matterの略。2020年5月にミネソタ州でアフリカ系アメリカ人が白人警官に圧迫死させられた事件をきっかけに、世界各国へとその抗議運動が広まった。
[4] 環境省(2017)『環境白書2017』[https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/index.html](2021年9月15日アクセス)
[5] 朝日新聞社「第7回SDGs認知度調査」[https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey07/](2021年9月15日アクセス)
[6] 企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ)『2020年度 ESG/SDGsに関する意識調査』[https://www.dentsu-pr.co.jp/releasestopics/news_releases/20200929.html](2021年9月15日アクセス)
[7] 広島大学FE・SDGsネットワーク拠点「若者世代は本当に SDGs 世代か?」[https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/158463/20210212_pr03.pdf](2021年9月15日アクセス)
[8] 牧島夢加(2021. 8. 5)「Z世代に広がる「サステナブル疲れ」:就活にもSDGs講座、友人同士でマウンティング」『Business Insider』 [https://www.businessinsider.jp/post-239519](2021年9月15日アクセス)
[9] 斎藤幸平(2020)『人新世の「資本論」』集英社新書
