特集-19
19.COVID-19パンデミックに際して企業の経済活動を再定義する
8月4日寄稿
COVID-19の世界的な蔓延を受け、地球上のすべての人類が大きな影響を受けている。もちろん、企業へ与える影響も計り知れない。しかも、COVID-19は、人類にとって初めての経験であるため、今後どのように展開するか予測しにくいことが、事態を一層困難にしている。
COVID-19パンデミック対策において、最大の課題は、経済と生命のどちらを重視するかという問題である。都市をロックダウンすれば、一時的に感染は抑えられるが、永遠にロックダウンを続けるわけにもいかず、それを解除すればまた蔓延してしまうことをすでにわれわれは経験している。しかも、経済とは生活の手段なのであるから、われわれが考えるべきことは、経済と生活の選択ではなく、どのように経済活動を行えば、COVID-19の拡大を抑えられるのかという問題であろう。
そのためには経済活動主体である企業には、経済活動の再定義が求められる。経済活動は、一般に営利活動と称され、利益を求める活動と理解されるが、今こそ利益とは何かを再考すべきである。たとえば、従業員の給料は、会計上は費用であって利益ではない。しかし、企業が生み出した価値(付加価値)の点からみれば、従業員の給料は創造された価値の一部であり、「広義の利益」である。税金も利息も寄付金も「広義の利益」である。株主への利益が残らなくても、赤字が出なければ、「広義の利益」が出ていることになり、それで経済が回ることになる。
このような考え方はCOVID-19パンデミック以前の経済界では常識ではなかった。そこでは、ROEや資本コストのような指標の重要性が強調され、その規律を与えることがコーポレートガバナンスであるとされる傾向まで生じていた。しかし、ROEも資本コストも、投下した資本に対する利益の割合を考える指標で、資本提供者にとっての効率しか問題にしていない。それはあくまでも「効率」であって、「利益」とは異なる概念なのである。
たとえば、「伊藤レポート」で提唱されているROE8%を基準として、ROE8%以下のプロジェクトをすべて棄却してしまうならば、そのことによって新規のROE8%以上のプロジェクトが増えない限り、創造されたはずの価値は減少してしまうのである。これは、経済を回すことが最優先の現状において、最も避けるべき行動である。それだけではない。短期的には赤字であっても、経済を回すことを優先すべき場合もある。幸い日本企業には分厚い現金留保を保有している企業が多く、それが株主からは非効率であると指弾されてきた。しかし、このような現金留保は、このような場合こそ、経済を回すために利用すべきである。
COVID-19パンデミックによって、GDPの大幅な減少傾向がすでに顕著となり、企業収益も大幅な悪化が懸念される。一方、COVID-19以前の経済発展は、資本提供者偏重の利益分配をもたらしてきたことが批判されてきた。GDPの減少や企業収益の減少が避けられない事実とすれば、その影響を最小限にするためには、資本提供者から他のステークホルダーへの利益の付け替えを行わなければならない、そのためには、ROEや資本コストに代わる経営指標を開発する必要がある。
COVID-19の蔓延は、企業に対して組織から個人への動きを加速させるであろう。働き方についても、組織中心ではなく仕事中心で構成されねばならない。そうなると、利益の対象も資本ではなく、個人へ移すべきであろう。COVID-19が、組織における個人の復権につながるのであれば、未来に希望が見えてくる。人類がCOVID-19を克服するまでにはまだ時間がかかるであろうが、それは人類に与えられた可能性の時間でもある。
