特集-11
11.COVID-19の感染拡大による航空会社への影響とその対応

  • 角田侑史 (神戸大学大学院経営学研究科 准教授)

8月18日寄稿

 COVID-19の感染拡大はあらゆる産業に大きな影響を及ぼしている。その中でも、航空産業は最も深刻な影響を受けている産業の一つといえる。各航空会社は、現在、各国における移動制限や行動自粛の喚起による交通需要(航空需要)の大幅な減少や、機内及び空港内での感染防止、安全管理の問題に直面している。さらに、オンライン会議やリモートワークの普及や、個人の経済状況の悪化などによる生活様式の変化によって、今後の移動需要の回復が遅れることが予想されるため、苦境は長期間にわたって続くと考えられる。

 具体的な予測として、IATA(国際航空運送協会)の報告によると、2020年の航空会社の純利益率は平均-20.1%で、世界全体として843億ドルの損失があると推定されている。また、COVID-19以前は順調な伸びを続けていた旅客数は全体で前年比55%減少し、旅客数がCOVID-19以前の水準に戻るのは2024年になると予測されている。また、ICAO(国際民間航空機関)は、2020年通年で3460億ドルから3850億ドルの収入の減少と、25億6500万人から28億6000万人の旅客数の減少、45%から50%の提供座席数の減少が見込まれると予測している。日本の航空会社も同様に厳しい状況にあり、第1四半期で赤字(JAL: 937億円、ANA: 1088億円)となり、旅客数も国内線・国際線ともに前年比約9割減(JAL: 国際98.6%減・国内86.7%減、ANA: 国際96.3%減、国内89.8%減)となっている。

 このような経済環境の変化によって、各航空会社は、大幅なコスト削減などの対応に迫られている。具体的には、運休や減便、機材の小型化などによって提供座席数を減少し、ロードファクター(有償座席利用率)を維持しながら、運航費用を削減している。また、人件費や宣伝広告費、航空機への投資の抑制などを実行することで、大幅なコスト削減を達成している。

 しかしながら、このような大幅なコスト削減にもかかわらず、月々のキャッシュアウトが数100億円から1000億円にもなる費用構造を持つ航空会社の経営は、資金繰りで困難に陥る可能性が高い。実際に、ヴァージン・オーストラリアやタイ国際航空など複数の民間航空会社が倒産や経営破綻に追い込まれている。このような倒産や経営破綻を回避するため、各航空会社は、航空輸送の公共性・公益性を盾に自国の政府と協議し、前例のないレベルの財政支援を得ており、航空会社を再び国有化するような動きも見られる。例えば、欧州最大の航空会社グループのルフトハンザ・ドイツ航空は、ドイツ政府による90億ユーロ(1兆800億円)相当の救済策を受け、株式の20%を政府が保有することで部分的に国有化されている。

 このような各政府による財政支援による航空産業への介入は、COVID-19の感染拡大という未曾有の危機に対応する緊急的な政策という面があるものの、その政治的な介入が一時的なものであるかどうかは不明である。COVID-19の感染拡大による影響がさまざまな予測どおりに長期化し、航空産業への政治的な介入が持続的なものとなる場合、その介入によって公正な競争が阻害される懸念がある。特に、航空自由化が進み、航空市場が統合されている欧州において、政府と航空会社の関係は複雑であり、単に一国のフラッグキャリアであるとは言えない側面がある。

 ポストCOVID-19時代における航空市場は、航空会社による自助努力がどの程度機能するか、および政府による航空会社への介入がどの程度持続するか、が大きな役割を果たし、航空市場の公正性や公平性についてさらに注視する必要があるだろう。