特集-3
3.コロナ禍で突きつけられた中小・零細企業のビジネスモデルの再構築

  • 忽那憲治 (神戸大学大学院経営学研究科 教授)

8月17日寄稿

 残念ながら、日本の中小・零細企業の収益性は低い。財務省の「法人企業統計」によれば、金融を除く全産業ベースで見ると、執筆時点で最新のデータである2018年度の総資本営業利益率(当期末)は、零細企業(資本金1000万円未満)2.3%、中小企業(1000万円以上1億円未満)3.0%、中堅企業(1億円以上10億円未満)5.3%、大企業(10億円以上)4.1%である。中小・零細企業の本業での儲ける力はわずか2~3%にすぎない。儲ける力を失ったビジネスモデルの再構築は、多くの中小・零細企業における課題となっているが、今回のコロナ禍で企業の存続をかけた重要かつ喫緊の課題として突きつけられている。

 ビジネスモデルの再構築という取り組みは、当然のことながらリスクが高い。しかし、中小・零細企業の財務体質はリスクが極めてとりにくい状況にある。財務省の「法人企業統計」によれば、2018年度の総資本に対して金融機関借入が占める比率は、零細企業の40.5%、中小企業の24.9%、中堅企業の13.0%、大企業の16.3%となっている。一方、同年の自己資本比率は、零細企業の19.3%、中小企業の41.2%、中堅企業の42.0%、大企業の45.5%となっている。財務的に見れば、自己資本は企業にとってリスクを許容できる資金である。その一方で、金融機関借入は定期的な返済を求められる負債であり、リスクを許容することが難しい資金である。零細企業は、財務的にはリスクがとりにくい金融機関からの借入に40%を依存し、リスクが許容できる自己資本はわずか20%程度を占めるにすぎない。

 今回のコロナ禍は、財務的にも中小・零細企業の経営の将来に極めて厳しい試練を与える。コロナ禍での緊急的、救済的な金融機関他からの資金の調達が負債(借入)ベースで行われていることで、2020年度の統計が公表されるときには、中小・零細企業において金融機関借入比率の大幅な上昇が予想される。内部留保を取り崩すなどの対応は、自己資本の厚みを低下させるであろう。今回のコロナ禍は、中小・零細企業、とりわけ零細企業に対して、リスクがとりにくい財務体質の下で、ビジネスモデルの再構築というリスクの高い取り組みを強いている状況である。

 こうした厳しい現実を直視した上で、制約される財務状況の中で、本業での儲ける力を高めるためのビジネスモデルの変革はどう実現すればよいのか。顧客が抱える課題を解決し、自社の強みを活かせるイノベーション・アイデアを再度構想し、そのアイデアを戦略に落とし込むべく技術戦略、事業戦略、知財戦略、財務戦略、人材戦略という主要な戦略の再設計を行い、実践するしかない。小手先の改善や修正で乗り越えることができるようなレベルの試練ではないことを経営者が直視し、その課題に取り組む覚悟を固める必要がある。目的地への楽なショートカットはなく、事業創造のためのビジネスプランニングのプロセスの王道を進み、乗り越えていくしかない。

 とは言え、中小・零細企業の内部の人材だけでは、この状況に立ち向かうのは大変である。彼らの取り組みを支援するために、イノベーション・アイデアをイノベーションの成果へとつなげるシード・アクセラレーションが不可欠である。神戸大学では神戸信用金庫と連携して、彼らの取引先である中小・零細企業のコロナ禍でのビジネスモデルの再構築を支援する試みを本年8月にスタートした。コロナ禍の中小・零細企業においては大学の知を活かした実践的な支援や連携が求められており、そこにあまり時間的な猶予はない。