プロフェッショナルの仕事術
人事の仕事にMBAでの学びを活かす

<略歴>
2001年 立命館大学政策科学部卒業
2001年 松下電器産業株式会社(現 パナソニックホールディングス(株))入社
2021年 神戸大学MBA修了
◆神戸大学MBA入学のきっかけ
私は、松下電器産業株式会社(現 パナソニックホールディングス株式会社)に新卒で入社し、一貫して人事のキャリアを歩んでまいりました。神戸大学MBAに入学するきっかけは、2017年に新卒採用担当となり3年が過ぎた頃、多くの学生のキャリア選択という大切なタイミングに関わる中、当社または日本の企業にとって、本当にこのような採用活動でよいのか?採用活動だけではなく、現在の雇用の在り方や働き方は適切なのか?という疑問が出てきたことです。
また採用活動を行う中で、多彩な大学の先生方とお会いし、いくつかの大学でキャリア教育の授業に関わらせていただく機会もあり、さまざまな方との出会いが、学びの意欲を後押ししてくれたことで神戸大学MBA進学を決めることとなりました。
◆新卒採用を取り巻く環境と課題認識
多くの日本企業における人材獲得のスキームは、日本型雇用慣行の一部である「新卒一括採用」の仕組みをとってきました。言い換えると、「新規学卒者をポテンシャル人材として採用し、企業内で育成をするモデル」であります。
コロナ禍を経た頃から、日本型の雇用慣行が多面的な変化を見せ、日本の人材マネジメントにおいては「ジョブ型雇用」が流行、リモートワークが当たり前になりました。また、同一労働同一賃金などが議論をされる中、さまざまな変化が起こりました。中でも、日本型雇用慣行の下に実行されてきた「新卒一括採用」については、批判的な発信も増えてきた時期でした。
当時の新卒採用市場は、企業の採用意欲が上昇し、求人倍率が高止まる中、産学官で論議された結果、政府から、就職・採用活動における要請が出されました。いわゆる3月広報開始、6月採用選考開始のルールです。また2020年当時は、コロナ禍ということもあり、対面での活動が一気に制限され、オンラインによる採用活動が主流となり、採用活動自体も先行きが見えない状況でもありました。
MBAでの学びと並行し、これらのルールと人材マネジメントの変化が起こる採用市場に向き合って、自社の採用戦略を作り活動をリードするということが、日々の業務として当方に求められた役割となりました。
◆MBAでの学び
MBAでの学びは、コロナ禍真っ只中でしたので、皆が慣れない中、オンライン授業でのスタートでした。お互いを知るためのオンライン飲み会なども開催し、プロジェクト研究もオンラインで論議をするという環境でした。対面での学びがほとんどできなかったことは残念ではありますが、一緒に学んだメンバーとは大変だった時期を共に過ごした仲間として、今でも交流があります。その環境下での学びを振り返りたいと思います。
①さまざまなカテゴリーの授業から、自社の事業のことを深掘りすることができる
新卒採用活動の早期化、長期化というのは、企業、学生にとってもメリット、デメリットの双方があります。自社の採用強化を考える上でも、日本の新卒採用市場のユニークな点をしっかりと理解し、その中で、どのように自社の採用戦略を考えるのか、またその先には、自社だけでなく採用市場全体を見た課題感を持ち、より良い市場となるような行動をとることができればと考えたのも、この頃でした。
ビジネスエコノミクス応用研究の課題レポートで、「ゲームと戦略」のカテゴリーから、「新卒採用活動に関する考察」と題したレポートを作成しました。政府指針の下で、多くの企業が優秀人材の採用で競争をしています。これらを学んだフレームに合わせて考えると、この政府指針は、強い拘束性を持たない「非協力ゲーム」になっており、詳細は割愛しますが、採用活動の早期化においては、競合企業間での「囚人のジレンマ[1]」に近いケースが起こっているとまとめることができました。この考え方は、採用市場において、どう自社の採用を強化するかということを捉えなおす良い機会になりました。現在でもその時に作った資料をチームのメンバーに共有し、新たな方策を考えることもあります。
②修士論文作成に向けたゼミ活動
MBAのハイライトは、やはりゼミでの研究であると思います。会社員だけではなく、士師業に従事されている方など、多様な業界、職種の方が所属する松尾ゼミに所属しました。ゼミでは、毎回、全員が研究の進捗を発表するということを皆で決めました。当方にとっては、論文完成という遠い目標に対して、時に同期ゼミ生の進捗に焦りを感じながらも、互いの進捗を確認し、ゼミで皆で論議する時間が非常に心地よかったと感じていました。自室で本や論文に囲まれて、これまでになく頭を使った時期でした。ほとんど進めることができなかった週もありましたが、牛歩でよいから少しでも前に進もうと努めました。当初は、日本における新たな雇用慣行を見つけるという壮大なテーマを掲げておりましたが、調べてみると途方もないことが分かり、結果、身近なところで「電機業界におけるジョブ型雇用と新卒採用戦略」というテーマに絞り、研究を進めることにしました。

研究の進捗に追われている頃の自室
③新卒採用活動で挑戦してきたこと
MBAでの学びは、課題の深掘りを支援してくれました。採用活動を単なる人材獲得競争から、自社に合った人材マネジメントにおける人材獲得の在り方について考えることができました。当社の新卒採用は、旧来型の一括採用から、各業務、キャリアとのマッチングを図る初期配属確約型の採用活動へカタチを変え、また、産学連携の取り組みをキャリアデザインプログラムとして昇華して、エンプロイージャーニーの起点にある採用活動として立体的に捉え、取り組みを描くことができました。自社の採用をリードする立場として、チームの合言葉に「日本の採用シーンを変える」を掲げました。もちろん、難しいことではありますが、産学で連携をしながら、自社独自の採用活動の取り組みを今後も進化させていきたいと思います。

一人ひとりに向き合った採用活動
◆学びを活かす
人事の仕事をする上で大事にしている観点で、経営、個々人のキャリア共に、過去、現在、未来は、つながったものであるという前提で、安易な取り組みに流されず、変えてはいけないもの、社会の変化に合わせて変えてよいものをしっかり捉えて取り組みを進めるよう心がけております。
現在は、採用担当から技術部門のHRBP(Human Resource Business Partner)として、仕事をしています。元々の課題認識に立ち返り、採用だけではなく、自社の技術部門における人材マネジメントについて、どうあるべきかを考え、実践する日々が続いております。もちろん、日本だけではなく、海外のメンバーと仕事をすることが日常でもありますので、日本のユニークネスを守り、グローバルに協働するところは柔軟に取り組んでおります。
MBAの学びを活かして、自社の人材マネジメントの進化を図り、その知見を社会に還元し、少しでも日本社会の競争力強化にお役に立てることができればと思います。
◆おわりに
最後に、MBAで過ごした時間は、かけがえのない経験になりました。コロナ禍の大変な時期においても、多大なるご指導をいただきました松尾貴巳教授をはじめMBA担当の先生方、また一緒に学びを深めた同級生の皆さま、多くの方々のご支援のおかげで学びを深めることができました。心より感謝申し上げます。

ゼミメンバーと修了式にて
[1] 囚人のジレンマ:ゲーム理論で取り上げられるゲーム事例の一つ。二人のプレーヤーが協力したほうが全体としては高い利益が得られるのに、個別には協力しないほうが高い利益を得られる場合、双方が協力しないという選択をしてしまう、というジレンマ。
