プロフェッショナルの仕事術
ミドルマネジメントによる「両利きの経営」実践チャレンジ

<略歴>
2008年 神戸大学経営学部卒業
2008年 コニカミノルタ株式会社入社
2021年 神戸大学MBA修了
◆MBAでの学び
私は、もともと神戸大学経営学部の卒業生ということもあり、神戸大学MBAには興味がありました。しかし、これという志望のきっかけがないまま時が過ぎ、たまたま会社の選抜派遣プログラムで2018年にスイスのIMD(International Institute for Management Development:国際経営開発研究所)で改めて経営に関わる学びの機会を得ました。そこで学びたいという欲求に火が点き、2020年から管理職になるという流れもあって、社外で学び、自分自身をアップデートしたいという思いが固まりました。
また、私はこの14年ほどディスプレイ向けの光学フィルムの営業の仕事をしています。「ディスプレイにフィルム?」とピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、ディスプレイはフィルムやガラスの積層体となっていて、精密に製造された光学部材が重要な役割を果たしています。弊社は偏光板用保護フィルムという部材を扱っており、いわゆるBtoBの材料ビジネスをグローバルに展開しています。一方、ディスプレイ産業は大規模ではありますが、産業自体は成熟化しており競争も激しく、この14年間で業績推移は厳しいものとなっています。そのような危機感から、事業部の組織としてもっと変革を意識しなければならないのではないか、イノベーションが必要なのではないか、そういった課題意識を抱き、MBAの門を叩きました。
MBAでは様々な領域のビジネスリテラシーを体系的に知識として学ぶことができますが、実は、この手の知識は使わないとすぐに忘れます。1年半のMBA在学期間で、新たに知識として得たものがあれば、すぐに仕事の中で実践しアウトプットすることが、MBAで学んでいる時には重要なことだと思います。
私が在学中を振り返って、スキルとして重要だと思っていることが2つあります。まずは、課題に対して考え抜いて論理的な文章にすること。そして、課題・問題に対して因果関係を明確に意識すること。実際の業務で発生する複雑怪奇な事象に対しても、思考が整理されて処理しやすくなり、自らのアップデートを実感しました。
神戸大学MBAはプロジェクト研究に重きを置いていますが、ゼミもその1つです。私が所属した忽那ゼミでは、仲間との対話を通じた、それぞれの課題に対する没入感はいい思い出です。様々な経験を持った人と共通の課題に関して対話をすることは、自分の応用力も鍛えられます。

忽那ゼミの仲間と
◆仕事での実践
私がMBA修了後に決意した実践の方向性は、ゼミでの学びや修士論文を通じて得た、「組織内イノベーションの創出をリードする」という点です。私の修士論文の議論の出発点は『両利きの経営』(O’Reilly and Tushman, 2019, 邦訳)ですが、ミドルマネジメントが、成熟した組織の中で新しい事業開発の方向性を作り出すには、どうすればいいのか?ということを深く考えることができました。忽那ゼミのテーマでもあるアントレプレナーシップ(企業家精神)を組織内で発揮し、イントレプレナー(企業内起業家)的な活動をすることが組織の成長にもつながるという考え方を実践したいと考えました。
自分が発案して新事業アイデアを進めることも大事ですが、組織として「イノベーションが常態化する」ことが事業成長のために必要な要件であると定義し、組織を巻き込んだ動きを考えました。自らの持つ事業への危機感=産業の成熟、フィルム事業の今後の展開への不安、このようなネガティブな側面はあるものの、積み上げてきた事業の有形無形の資産を活用して新しいビジネスを展開できないか、それを専門で検討するプロジェクトを考えながら過ごしていました。
ある時、幹部層が集まるミーティングにおいて、長期計画の中で数値目標を設定するものの、何をすべきかという議論になり、その際に上述の自分の考えを披露しました。その結果、「よくわからんが、とりあえず動いてみろ」ということになり、これが、所属事業部内の短期新事業検討プロジェクト「2030PT」の立ち上げにつながりました。
「2030PT」は平たく言えば、事業部内の有形無形資産を活用し、既存とは離れた領域でのビジネスを検討するというプロジェクトです。よくあるプロジェクトのように思いますが、自分なりに凝ったポイントは以下の5点です。
- 事業部内公募:役職部署問わず、新規検討したい人に手を挙げてもらう。
- 新規専任:チームメンバーは、検討期間に現業を離れて新規検討に専任する。
- 短期・ステージゲート制度:期間は半年で、期限内に事業部長承認を得て、事業化検討に移行できる。
- 研修・実践の並行体制:いきなりアウトプットするのではなく、新ビジネス検討のためのビジネスプランニング研修をインプットとして行い、インプットとアウトプットを同時に行えるようにする。
- サポート体制:PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として私が仲介役となり、事業部上層部とのフランクなコミュニケーションが取れるようにサポートする。常に上位職とはオープンな関係を維持できる。
このPTは2期にわたって活動し、CO2分離膜、農業フィルム、太陽電池向けフィルムなどの事業構想を打ち出しました。詳細は割愛しますが、ゲートを通過し事業テーマになっているものもあります。私の目線で本件を組織内で取り組んだ意義は、「新規事業について本気で考える場を作る」「事業部内のアントレプレナーシップのムーブメント醸成」「家のことは家で考える」の3点であると考えています。
組織の人に「新しい事業を生み出せ」といきなり言っても、出てくることはまずありません。皆、目の前の既存の世界に没頭しているからです。だからこそ、少しスピンアウトさせた小チームで、自由度や学びの場を与えながら限られた時間でアウトプットを出してもらうという取り組みは、目線を変えるいい経験だと思います。事業の非連続的な成長を作り出すためには、その事業担当者がマインドを変え、自ら生み出していく。これが本当の意味での成長だと考え、私は今も歩みを進めています。

社内新規研修にて

研修の様子
