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サイエンス・カフェ(経営学)のご報告
神戸大学経営学部では、主として高校1・2年生を対象としてサイエンス・カフェ(経営学)をZoomによるオンラインで開催しています。昨年に続き、第4弾として9月の週末に開催し、当研究所が事務局を担当しました。
第4弾は、9月23日、24日に以下のような内容で開催しました。

9月23日(土・祝)
テーマ:人々の行動を社会にとって望ましい方向に導くには? ~コロナ禍のケース~
講 師:中村絵理 准教授
概 要:人々が自分の得だけを考えて行動すると、社会全体として望ましくない結果になることがあります。コロナ禍で個人の経済活動と社会の感染拡大防止をどう両立させるかという問題を、公共性の視点から考えます。
9月24日(日)
テーマ:異世界に転生した俺が今日も何とか生きているのは経営学のおかげです。
講 師:原 泰史 准教授
概 要:大学の勉強って何の役に立つのでしょうか?あなたは異世界に転生した(元?)経営学部の大学生です。イノベーションやマーケティング、経済学、データサイエンスなどの知識を用いて、どう新しい世界でサヴァイブできるのか、「あなた」の様子を観ながら考えてみましょう。
今回も担当いただいた講師から寄稿いただきました。
サイエンス・カフェを終えて
中村 絵理
今回のサイエンス・カフェでは、人々を社会的に望ましい行動へ導くための経済学的な仕組みについてお話ししました。経営学の一般領域では、企業の利潤最大化行動や消費者の効用最大化行動などを扱うことが多いのですが、今回私がお話ししたテーマでは、一つの企業や一人の消費者の利害ではなく、社会全体として望ましい方向に向かうための行動に焦点を当てています。
社会の中で、企業や個人はそれぞれが異なる利害に基づいて行動しています。それらの利害が社会的に望ましい方向と一致していればよいのですが、多くの場合はそうではありません。例えば、ある人がコンビニでサンドイッチを買った後、そのごみを自宅まで持って帰って処分するのが面倒だと感じたとき、道にポイ捨てする動機が生まれます。しかし、社会的にはごみのポイ捨ては環境汚染やごみ処理の追加コストなど余計な費用が増えることになり、望ましくありません。このようなとき、個人の自由な行動に任せておくとごみのポイ捨てが増えることになりかねないため、自治体はごみのポイ捨てをさせないよう課税(罰金)、ごみ持ち帰りの補助金など様々な仕組みを用意します。
サイエンス・カフェの説明の中では、参加者の皆様にとってもイメージしやすいであろう、コロナ禍で問題となっていた「経済活動と感染防止対策という二つの異なる目標をどのように実行するか」を例に挙げて具体的な仕組みをお話ししました。似たような例はコロナ禍だけでなく日常の至る所に見られます。例えば、上述したごみのポイ捨ての問題、騒音をめぐる隣人同士の関係、河川や湖をめぐる漁業者と農業者の資源利用の関係などです。「個人的な利益の追求ではなく、社会的に望ましい方向へと人々の行動を導く」という視点は、昨今のサステナビリティやSDGs (Sustainable Development Goals)などの文脈でかなり浸透してきていますが、理念的な目標だけでなく、具体的に実施可能な施策を考えるうえで、経済学的な仕組みづくりが今後は重要になってくるでしょう。
講義の最後では、参加者の皆様からたくさんの質問があり、私自身も楽しく答えさせていただきました。今回お話ししたコロナ禍に関するテーマだけでなく、経営学や大学で学ぶことそのものについての質問もあり、参加者の高い意欲が伺え、充実した講義となりました。
サイエンス・カフェを終えて
原 泰史
高校生向けの模擬講義をやる際の鉄板としては、いかにも高校生が気に入りそうな題材を用意して、かつ大学の講義で使っているスライドを若干盛り込み、高校生というよりは、高校あるいは予備校の先生の大学に対する期待値を最大限に満たすように設計する。というのが常道ではあるわけです。
ただ、それを私がやる必要もない。そういう王道を往くことは、少なくとも私はおそらく社会からは期待されていない。ということで、今回はいささか面倒な方式を採用しました。
私が高校生のころを思い出すと、よくライトノベルを読んでいました(好きな作品は、今でも読み返すのですが)。そこで、今回のタイトルは『異世界に転生した俺が今日もなんとか生きているのは経営学のおかげです。』としました。ライトノベル業界ではちょっと前に流行した異世界転生モノです。主人公は、異世界に「転生」した神戸大学経営学部原ゼミの大学生です。彼がどのようにして異世界を経営学の知識を用いてサヴァイブするのかを、物語形式で60分話しました。主人公の属性を決める。登場人物や舞台設定を決める。いかにも取って付けた感がないように、経営学に関連する題材を物語の中に盛り込む。物語なので、起承転結がある。オチを用意する。だけれど、最近のNetflixのドラマのように、いかにも続編があるような引きにする。結果、ほぼ新作落語か新作講談のようなものを作ることになったので、手間がかかり大変でした。やはり、王道というのは大事なのだと痛感します。
物語の中では、「大学で勉強する意味」、「大学で得た知識をどのように社会で活用できるか」などを盛り込むようにしました。〇〇大学卒業という社会からのラベリング以上の意味を、果たして大学は価値として学生に提供できているのか。おそらくこうした視点を批判的かつ敏感に有しているのは、誰よりも高校生なのだと思います。今回のサイエンス・カフェが、彼らや彼女らの将来にとって何かしらの意味を持つかどうかはよくわからないのですが、人生の選択肢というのは実は多様にあるということに気づいてくれたのであれば、これ幸いです。
後半は質疑応答としました。データサイエンスや進路、特に会計士やスタートアップなどに関する多様な質問がチャットに飛び交い、どうやら関心を持っていただけたのかなと思いました。こうした機会があれば、ぜひ今後も登壇できればと思います。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
どちらの回も、後半の質疑応答では参加者の皆さんからチャットでたくさんの質問が寄せられました。担当講師が、時に自身のエピソードを交えて、ていねいに率直な考えを述べてくださいました。寄せられた質問には、大学で学ぶこと、留学、起業やデータサイエンスについてなどがあり、指定の時間を超過するほど双方のやりとりが続きました。このサイエンス・カフェでのお話が、担当講師から参加してくださった皆さまへのエールとして届き、経営学についてより関心を抱いてくだされば幸いです。
