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輪読会のご報告

 現代経営学研究所では、新企画として神戸大学大学院経営学研究科教員による輪読会をZoomによるオンラインにて開催することとなりました。

 宮尾准教授による「How Stella Saved The Farm」輪読会を10月中旬より毎週水曜日の夜に全8回開催、11月には庭本准教授による「恐れのない組織」輪読会を毎週金曜日の夜に全4回開催しました。少人数制で実施したこともあり、どちらの輪読会も活発な意見が飛び交う学びの場となったようです。

 担当いただいた宮尾准教授、庭本准教授より、どのような形で輪読会が開催されたかなど所感含めまとめた寄稿をいただきました。

輪読会を終えて 

宮尾 学 

 私の輪読会では、英語の書籍である「How Stella Saved the Farm」を題材にとりあげ、10名の参加者と一緒に8回の勉強会を行いました。

 How Stella... はイノベーション研究で著名なヴィジャイ・ゴビンダラジャン教授とクリス・トリンブル教授が執筆した、イノベーションマネジメントを学ぶためのおとぎ話です。登場するのは馬、牛、羊、アルパカといった動物たち。父が亡くなり農園を引き継いだ馬のディアドラは、農園乗っ取りの危機に直面します。そこに、旅から帰ってきた羊のステラが現れ、アルパカの毛を使った新規事業を提案します。既存事業と新規事業の軋轢が生まれる中、動物たちはいかにしてイノベーションを成し遂げるのか、というのがこの物語のあらすじです。

 本書は、イノベーションマネジメントの本質を学ぶためのテキストとして世界的に読まれています。イノベーションに取り組む際の「あるある」な問題が随所に散りばめられていますし、登場する動物たちも「ああ、うちの会社にもこういう人いるわ」というキャラクターばかりです。架空の物語ではありますが、だからこそ、イノベーションマネジメントで陥りがちな落とし穴と、それを回避する方法が効果的に学べるようになっています。

 各回では、2〜3名が担当章の内容について解説し、その後、グループ・ディスカッションを行いました。例えば、1章では、先代のマーカスが、副社長のブルを差し置いて娘のディアドラに農場を継がせるという話を解説した後で、「マーカスには他にどのような選択肢があったのか」について議論しました。なぜブルではだめなのか、なぜディアドラなのか、他の選択肢は・・・。このような議論から「会社に変化をもたらすためには、どのようなリーダーを選ぶべきか」ということを深く考えていきました。全19章と終章で合わせて20の課題に取り組んだことになりますが、時間が足りなくなることもしばしばでした。

 参加いただいた皆さんは、それぞれ自分の職場でイノベーションに関わる問題を感じている方ばかり。実際に、様々なイノベーションに取り組む経験をした方もいらっしゃいました。そういった経験を議論に持ち込み、本書のストーリーと比較することで、自分の経験をより客観的に見つめ直す機会になったとのことです。また、将来、自分がイノベーションに取り組もうとした際に、「あ、これはあの場面と同じだな」と理解が進むだろうという声もいただきました。

 この企画を立案した際は、仕事をしている方が毎週英語を読むのはハードルが高いのではないか、とも考えたのですが、結果的には杞憂でした。むしろ、英語だからこそ文化の違いなど色々なことを考えるきっかけになり楽しかった、という声もいただきホッとしています。参加いただいた皆さんとの議論から、私自身も多くのことを学ぶことができました。初めての試みを成功裡に終わらせることができたのは、参加いただいた皆さんのおかげです。改めて、御礼申し上げます。

課題図書:
How Stella Saved the Farm: A Tale about Making Innovation Happen
Vijay Govindarajan, Chris Trimble(者)Keny Widjaja (絵), St Martins Pr, 2013年

 

参加者の声(アンケートより抜粋)

・How Stella・・・は、実務に応用できそうな要素が非常に多く、日々の仕事中での考えに活かせそうです。輪読会の面白さも感じたので、さっそく社内で開催しています。

・教材が面白いこともあり、発表とディスカッションの時間配分および週1日の開催といったリズムが良く、先生のコメントやディスカッションの内容から多くを学ぶことができました。

・はじめての経験でしたが、とても楽しんで受講できました。また、神戸大学のMBAの内容に少しばかり触れるいい機会になったと思います。

 

輪読会を終えて

庭本 佳子

 今回の輪読会では、『恐れのない組織―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす―』を題材にして、10名の参加者で4回かけて毎回2章ずつを読んでいきました。

 この本は、心理的安全性を高めることによってチームや職場のパフォーマンスを最大にしていく組織が描き出されており、2021年に邦訳も出版されました。「心理的安全性」自体は、近年、学術界においてもビジネス界においても非常に有名になった概念であります。そうであるがゆえに、言葉が独り歩きしてしまっている印象もあり、元々の概念の提唱者であるエドモンドソン教授の著作から「心理的安全性」とその組織づくりを読み解いていこうという趣旨で選定したものです。実際、参加者からは、「心理的安全性」という旬のコンセプトを他のメンバーとともに多様な視点から考察できたことが良かった、などの感想を多くいただきました。

 輪読会の前半は、5人ずつの2グループに分かれて担当者のサマリー紹介とグループ内での質疑が行われ、後半はそれぞれのグループでまとめられた内容が全員に共有され、職場での経験や実体験なども踏まえながら全体ディスカッションが行われました。

 本を読むということは、本の著者との知識の対話であってそれ自体ワクワクするものです。しかし、一人で本を読んでいると読み飛ばしてしまったり、どうしてもわからないところが出てきて煮詰まってしまったりすることもあります。

 輪読会では、サマリーを発表する人は、読んだことを他の参加者に伝えるという意識で少しばかりの緊張感をもって読むことができるでしょうし、他の参加者はディスカッションを通して新たな捉え方や視点が刺激になることでしょう。

 また、ディスカッションで、テーマから派生して職場でのエピソードが参加者から提示されることで、一人で本を読んでいるときには思ってもみなかった展開になることもあります。実際、今回の輪読会に参加された方の声として、他の参加者との交流から生まれる新たな視点をメリットとして挙げておられる方が多く、輪読会で得られた知識や視点によって日常の職場実践の意味を再発見されているようでした。

 毎回、参加者の間では時間が足りないくらいディスカッションが展開されていました。輪読会は初めての試みでしたが、私自身、非常に楽しい時間となりました。参加者の皆さまにとっても、MBA修了後の学びの場、そして相互交流の場になったのではないかと思います。参加者の皆さま、そして輪読会をアレンジメントして下さったRIAMの皆さまには、輪読会を盛況のうちに終えることができましたこと改めて御礼申し上げます。

課題図書:
恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
エイミー・C・エドモンドソン (著)、村瀬俊朗 (解説)、野津智子 (訳)、英治出版、2021年

 

参加者の声(アンケートより抜粋)

・神戸大学MBAの先輩方と知り合い、意見交換できる貴重な機会でした。MBA修了後も 経営学について継続的に勉強することができて参加してよかったと思います。

・課題図書を読むきっかけになり、他の参加者の読後の視点も知ることができ、非常に勉強になりました。MBA修了生の方と交流が持てたのもよかったです。学びだけでなく人脈形成の場としても活用したいと思いました。

・輪読会は、内省する実務家が先生からもたらされる最先端のアカデミズムの知見に触れつつ、参加者が互いに刺激し合い仲間になれるとてもよい場だと思います。

 

 ご参加いただいた皆さまには、アンケートもご協力いただき、この場を借りてお礼申し上げます。

 不定期にはなりますが、今後も輪読会を開催していく予定です。企画が固まりましたらご案内いたしますので、ご参加ご検討いただけますと幸いです。